連載コラム


セイルセッティングpart1

セイルデザインの変化

リーチが「開く」という表現を聞いたことがあるだろう。セイリングを真後ろから見た時、ブーム付近のリーチ部は閉じ、セイルトップに近いほどリーチ部が開いて見えること。このリーチの開きが、風が弱いほど少なく、風が強いほど大きく、また風の強弱に合わせてレスポンス良く(閉じたり開いたりするように)反応することが、セイルの善し悪しを語る上での最重要項目のひとつとされている(流体力学的な専門知識は別として)。

こうしたリーチが開く反応は、鳥の翼がモデルになっている。飛行機の翼がそうであるように、セイルもまた鳥の翼同様のしなやかさを手に入れるために、過去、さまざまなデザイン的試みが成されてきた。

1980年代前半、今もスクールで使われる三角セイルの次に当たる時期、近代セイルの冒頭に登場したのが「ファッドヘッド」、そこから続く「カットアウェイ」と呼ばれたセイルだ。これはセイル上部のリーチ部が大きく「張り出した」デザインで、それがまるで「イカ」の頭のように見えたものだから別名「イカ・セイル」とも呼ばれていた。このカットアウェイは、イカの頭部にあたる部分に風を受けることで、強制的にリーチを開かせるというデザイン。風が強いほどイカの頭が強い力で押されて開く、という魂胆だった。

その次、1980年代後半に登場したのがリーズリーチという概念。リーチセクションがただひたすらルーズでダラダラであるのが特徴で、そのダラダラに「余った」リーチ部が風を受けて開くというデザイン。リーチをダラダラにしようとするあまりにその部分の補強は少なく、プレーニングするとバタバタと旗のようにはためくリーチが千切れ飛ぶこともあった。この千切れ飛ぶリーチの補強として登場したパーツは、今もリーチ部にショートバテンという形で受け継がれている。

そして1990年代以降、現代まで続く主流が「ツイスト」だ。

(そもそもツイストという言葉は過去のセイルにもすべて当てはまるコンセプトだが、ここでは一般的表現方法に即して、近代セイルの基本デザインを示す言葉として使うことにする。)

ツイストとは、マストが「しなる」ことでセイルが3次元的に「ねじれる」コンセプトで、加速時のそのビジュアルはまさしく鳥の翼そのもの。この「ツイスト」を完成に導いたのが、近代カーボンマストの登場だ。それ以前のマストとは比較にならないほどレスポンスに優れる高性能カーボンマストの登場が、セイルの進化を大幅に後押ししたのである。

ツイストするセイル

ツイストは、マストが「しなる」ことでその性能を発揮する。ダウンを引くことによりマストを弓のようにしならせ(前後方向2次元的なしなりと言えるだろう)、それが風を受けることでさらに横方向にしなり(サイドベンド)、結果として3次元のしなりとなる。それがセイルに鳥の翼のしなやかさを与える。

ツイストを実現するには、まず、マストを弓のようにしならせなければならない。すなわち弓のようにしならせるだけの最低限のダウンテンションが必要とされる。

にもかかわらず、風が弱いという理由でダウンを緩める人がいる。これは、ダウンが緩いとセイルが重い=重いと手応えがある=手応えがあると風が弱くても走り出せそうに感じる、という理由による。たしかに重い手応えが走り出しを助ける場合はある。が、走り出したあとは別問題だ。ダウンの不足はツイストを阻害するから、せっかく走り出しても加速しない、セイルがフラフラしてコントロールできない、など本末転倒な結果に陥るのである。これではちっとも楽しくない。

今のセイルでダウンを緩めるのはプレーニングできない激アンダーのときだけと心得よう。プレーニングを意識するなら、すでにここまでの解説で、それなりのダウンテンションが必要だということが理解できているはずだ。

フォームを見ればこれがアンダーだとわかる人も多いだろう。にもかかわらずセイル上部は大きく開いて見える。マストが「しなり」、セイル上部ほど「ねじれた」状態、これがツイストだ。このツイストによって近代セイルは、アンダーを加速し、オーバーを乗りこなす能力を持つ。Photo by Tamotsu Takiguchi