連載コラム


スピンアウト part1

 スピンアウト。プレーニングを日常楽しむ者にとって、それがとても厄介な現象であることは、実感として体に染み付いている。

 フィンが水面とグリップしない現象「スピンアウト」に陥ると、ボードは真っすぐ走れなくなる。それは例えるなら、車のタイヤがまったく路面とグリップせず、加速しようにもタイヤだけが空回りしたり、ハンドルを切っても横滑りするばかりで、まったく方向修正が利かない状態。スピンアウトの可能性を抱えるだけで、どれほど良質の道具を使っていたとしても、最高速を出すことも、クイック且つスピーディーなターンをすることもできない。すなわち道具が本来持つ性能を楽しむことも、自分の技量を思う存分発揮することもできない。

 多くの人はスピンアウトを、「フィンが抜ける」というひとつの現象としてとらえている。しかし実際は、2つの異なる現象があるのを知っているだろうか。その2つの現象とは、「ストール」と「ベンチレーション」。さらにストールやベンチレーションの引き金となる「キャビテーション」という現象もある。

 これら3つの要素を個々に理解していると、スピンアウトを起こさないようにコントロールしたり、スピンアウトを回復するトリムを行えるようになる。これを知ると知らないとでは、セイリングに大きな違いが生じるのだ。

 話が少し脱線するが、私は流体力学を学んだわけはない。これから説明する事柄は、すべてが個人的知識に基づくものではなく、カーチス・ノートが元になっていることを、本編に入る前に記しておく。カーチスノートとは、カーチス・フィンのデザイナーが自らの知識を記したノート。現在流行の(レース系)フィンの定番がデボシだとすると、その前がスピットファイア・シリーズなどを有するテクトニクスマウイ・フィン、さらにその前に世界レベルでレーサーから支持を得ていたのがカーチスフィンで、デザイナーであるMr.カーチスは、飛行機のデザイナーでもあり、その彼がフィンに関して流体力学的な見地から記したのがカーチスノートだ。

 カーチスノートを初めて目にしたのは、今から15年以上も前で、そのノート自体、現在の所在は不明だ。しかしそこに記されていた事柄は、15年を経た現在もなお、私自身が直面するスピンアウトで正しいと実感する。カーチスノートに記されていたことを忠実に検証することで、スピンアウトを回避したり、フィンの善し悪しを判断したり、正しいフィンサイズを探り出したりすることに大いに役立っているのだ。

 過去、スピンアウトに関しては、専門誌において幾度か記してきた。しかし今一度、このページを見るウインドの熱烈なファンの方々に、「今」の実体験を加味してカーチスノートを伝えようと思う。しかし前述したように、カーチスノートの所在はわからない。そのため細かい数値などがアバウトになることだけはご容赦願いたい。もしその道の専門家がいて、欠落した数値などを補填していただけるなら、また最新流体力学に照らし合わせて何らかのご指摘があるようなら、ぜひお教えいただきたいと思う。

 話を本題に戻そう。まずは、キャビテーションについて。キャビテーションという言葉は知っている人もいるだろう。が、たぶんほとんどの人は、キャビテーションを「フィンが柔らかくて水中でブルブル震える現象」と思っているはず。しかし、それは間違いだ。さらに、キャビテーションは、乗り手がどうしようもない現象なのである。