レースセイルのセッティング

QS.Nさんからの質問

ハイウインド4月号で掲載されたカムセイルのセッティング方法について。参考にするとともに、2011ナッシュGRANDPRIXにも共通するのでしょうか。

A掲載したカムセイルのセッティング方法は、言うなれば「もっとも丁寧な」セッティング方法です。時間に換算すると、いつもなら15分で済むところを30分をかけてセッティング。そうして手をかける分だけ、マストやセイルを痛めるリスクを減らせるという方法です。ここまで丁寧にセッティングしていれば、まず(セッティングにおける)セイルの破損はありません。

もしかしたら「こんな厄介なことは必要無い」と言う人がいるかもしれません。たしかに、ダウンを引く際に「なんかいつもと違う」「どこかにトラブルが発生しそうな気がする」というような感覚のズレみたいなものを察知できる人であれば、これほど丁寧である必要はありません。すぐれた察知能力を持つプロは、ダウン機器でダウンシートを巻き取っていても、そのわずかな力加減の違いからそれを察知でき、そして違和感を感じたらセッティングを見直すことができるからです。しかし自分もその類であると勘違いし、結果として壊してしまう人が多いのも事実。当方に入院する破損セイルを見ても、それが原因で破損しているセイルが何と多いことか!それを踏まえての問題提起、「高額なセイルを壊してしまわないため」にあえて掲載した内容とご理解ください。

質問者のセイルに関しても同様。他のセイルも含めて、カムセイルである限り、テンションの違いなど個々あれど、手順としては同じと言えます。面倒だからやめるか、面倒だけどセイルを大切に考えて念には念を入れるか。どちらを選ぶかは質問者の考え方次第です。ちなみに私は、わずかな違和感を察知できると自負していますが、それでもなお手間を惜しまずに掲載手順でセッティングします。その甲斐あって、過去セッティングにおいてセイルを破損したことはありません。

さらに、掲載スペースの問題上、紙面では記せなかったマニアックなことを解説しておきましょう。

マストは一度セッティングすると、少なからず「クセ」が残ります。これは、セッティングを解除したあとにマストの曲がりを見るとわかります。曲げられていた向きにわずかに曲がったままであるからです。この曲がったクセのついたマストは、極端に言うなら、前縁のカーボンが伸ばされた状態で、後ろ縁のカーボンが縮んだ状態にあります。

もし次に張るとき、前回と同様の向きにマストを(スリーブに)入れたとしたら?すでにクセのついたものを同じ向きに曲げるのだからダウンは少し軽く引けます。逆に前回と逆向きに入れたとしたら?逆反りしたものを逆向きに曲げるのだから少しダウンが強く感じます。意味がご理解いただけるでしょうか。

そして、同じ向きに入れ続けるとマストは絶えず同じ側のカーボンが伸ばされ、もしくは縮まされていることになります。逆向きに入れれば、前回伸ばされた側がいつも強制的に縮まされ、縮まされた側がいつも強制的に伸ばされます。これらは、どちらにしてもマストに負担がかかってしまいます。

そこで上と下のピースをセッティングの度に180度回転させて接続してセッティングします。マストにはロゴマークなどのプリントがあるので、それを目安に上下ピースを回転させながら、さらにスリーブに入れる際も毎回同じ向きにならないように使うということ。こうしてマストの特定な側に特定な力を集中させないことで、マストを長持ちさせることができる可能性が高まります。

レースセイルのマストは高額。さらに、マストが折れれば少なからずセイルもダメージを受け、最悪の場合はスリーブが破けるなどの大ダメージを負います。ここに記したことはすべて、そうした余計な金銭的負担を負わないためのリスク回避の方法です。繰り返しますが、面倒ならやらなくてもいいですよ、ただしリスクを背負うことは覚悟しましょう、ということです。そして、こうしたことはメーカーも承知しているので、面倒が元で破損した場合のクレームはなかなか通りませんよ、リスクは自分負担を覚悟で、ということです。