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Q:T.Kさんからの質問 ハーネスラインの長さについて。自分ではジャストの長さと思うのですが、上級者と比較すると、上級者が腰と膝が曲がって「腰掛ける」ように見えるのに対して自分は棒立ちに思えます。また、強風になるほどウネリがお尻に当たって乗りにくいためハーネスラインを短くセットしているのですが、上級者は風速にかかわらずラインの長さは同じで乗っているのでしょうか。 |
A:今回、質問者は質問と合わせてご自分が完プレしている動画も投稿してくれました(画像は個人情報に帰するので掲載を控えます)。残念ながら撮影が遠くPCで拡大してもシルエットでしかわからずハーネスラインの長さやブームの高さなど詳細は確認できなかったのですが、確認できる範囲でその動画を見る限り、明らかに「どこかがおかしい」ということは無く、それどころかしっかりセイルも引き込めているし、ツイストするセイルの挙動も安定して見え、気持ち良く且つ相応のスピードにも乗れて見えました。 その上で逆に質問。今の状態で何か支障が感じられるのでしょうか。たとえばオーバーに滅法弱いとか、スピードの伸びがもう何年間も頭打ちだとか。もしそうしたことが無いのであれば、たぶん今のラインの長さが自分にはジャストフィットなのだと思います。 そもそもハーネスラインは人それぞれです。例えば私の場合。ラインのブーム取り付け幅は、今は狭いのが主流でその幅15センチ未満なのに対して、私の取付け幅は23センチと広いです。世界を見ても狭いのが当たり前ですが、ビヨンは私同様にクラシカルスタイルでやはり幅広く付けています。ラインの長さも同じく。私は30センチに満たない長さですが今は概ねそれよりも長いのが主流でしょう。何が言いたいのかといえば、ハーネスラインは幅も長さも「自分さえ調子良ければそれで善し」ということ。人を参考にして試し、より良い長さなどを模索することはとても重要なことですが、だからと無理してまで人に合わせる必要はまったく無いということです。 そうした違いは乗り方(フォーム)に起因すると思われます。例えば背筋のわずかな筋力違い。背筋が強ければ少し棒立ちフォームで背筋を使ってハーネスを引くのが調子良いかもしれないし、または小柄で体重が軽ければ、少し腰掛けるようなフォームで体重をより有効利用して引くのが調子良いかもしれません。その両者の違いがフォームとなって現れ、それぞれにベストなラインの長さも異なって当たり前なのです。 そうしたことを踏まえた上で質問に戻りましょう。質問で気になるのは「強風になるほどウネリがお尻に当たって乗りにくいためハーネスラインを短くセットする」というところ。一般的には(前記したように人それぞれだけどあえてまとめれば)強風になるほどラインは少し長くします。なぜならそうすることでセイルと体の距離を開け、その距離を担保に前に飛ばされそうな場面でワンテンポ踏ん張れるから。そうして長くすることこそあれ、またラインの長さが同じであることさえあれ、吹くほどに(アンダーからジャスト、ではなくてジャストからオーバーに向けて吹き上がるほど)短くするというのはあまり無いと思います。 しかし質問者のように「ラインを短くしないと」「ウネリがお尻に当たる」というのは、明らかに体(お尻)が水面に近くあることを示唆しています。これはラインが長過ぎた場合に起きやすい最たる現象。しかし質問者の場合はラインを短くするのだから、ラインが長過ぎるという原因は有り得ません。ならば、なぜそうなってしまうのか? 視点を変えて考えてみましょう。ここで考えるべきは「ハーネスラインにかかるベクトルの向き」。腰掛けるように乗るとは、ベクトルの向きが下向きということを示唆し、対して棒立ちで不都合があるとしたら、それはベクトルの向きが横向きだ、という違い。わかるでしょうか。下の写真を見てください(古い写真で申し訳ありません)。赤矢印で示したハーネスラインにかかるベクトルは斜め下向き、このフォームからさらに腰を曲げて重心を下げれば赤矢印はさらに下に向き、腰を伸ばして重心を上げれば矢印は横向きに近づく、ということです。 そこにはもちろんフォームや、それに伴うハーネスラインの長さが大きく影響します。しかしそれだけでは無く、ブームの高さもまた影響することに気付くでしょうか。写真を見ながら想像してみてください。ブームを低くしたなら、それだけで矢印は横向きに変化するし、ブームを高くしたらそれだけで矢印は下向きに変化するだろうということです。 このことから、質問者はもしかしたら「ブームが少し低いのかも」というひとつの想像が成り立ちます。「強風になるほどウネリがお尻に当たって乗りにくい」という現象は「海面と体の位置が近い」から起こるわけで、それはハーネスラインが長くても起こるし、俗に言う「カイトセイリング状態で」体が不必要に「寝た」状態でも起こるし、さらには、ブームが低すぎても起こる現象なのだから。 もしそのような心当たりがわずかでもあるとしたら、ひとつの改善策として、今よりもブームを1.5〜2センチ高くセットしてみましょう。そのときのハーネスラインの長さは同じで、ただブームを高くして試してみるだけ。ジョイント位置のチューニングはミリ単位で違いが明らかに表面化しますが、ブームの高さはそれほど繊細ではないので、思い切って変えてみないとその違いがかわりずらいという理由で1.5〜2センチくらい思い切って変えてみちゃいましょう、ということです。 ブーム高さは乗り手の身長に強く影響されると思われがちですが、実際は長身なのにビックリするほど低くセットする人もいるし、小柄なのにとてつもなく高くセットする人は、世界のトッププロにも数多くいます。すなわち自分の身長に対して正解の高さが無いということなので、もしかしたら質問者も今より5センチ高くしたらとても調子良くなった、などという驚くべき結果に辿り着くかもしれません。ちなみに私の場合、ジョイントを両足で挟んで板に立ってブームを鼻先まで持って来たとき、ウェイブではブームが鼻下の高さですが、スラロームでは目の高さ。それはセイルサイズが6.5〜7.8の場合で、8.5とかのラージサイズになるとさらに高くなり、9.5あたりだと眉毛の上あたりの高さになります。 とにかく「人がそうしてるから自分もしないといけない」とか、「そうするのが一般的だから自分もその法則に則って」というような既成概念に捕われすぎないこと。人を参考にすることはあっても必要以上にトレースぜずに、人は人、自分は自分と割り切っての再検証をオススメします。その上でさらなる疑問が生じたなら、またご質問をお待ちしています |