ボードの浸水と自己修理

QS.Nさんからの質問

先日、ボードのノーズを壊してしまいました。10センチくらいの割れで、さらに上下にズレもあります。気付いてすぐに帰着したのですが、板を逆さにして1時間くらい様子を見たところ、割れたところから10センチほどの水たまりができるほど水が出てきました。板の年式的にも乗り潰すつもりなので、自分で治して出来る限り乗れるところまで乗ろうと思っていますが、浸水をそのままにしておくと今後、内部が腐って走行中に折れたりなどありますか。また、浸水を自分で抜く方法もあったら教えてください。

A割れだけでなく縦にもズレがあるということは、相当なダメージがあったと想像できます。また、急いで戻ってもなお水たまりができるほど水が出てきたことを考え合わせれば、シェルが完全に壊れたのでしょう。

カーボンやグラスファイバーと硬質ウレタンやウッド材など、さらにファイバー繊維でサンドイッチされたシェルが完全に割れた、ということは、芯材の発泡スチロールまで浸水していると思われます。とは言え基本、発泡スチロールは水を「吸わない(発泡スチロールの『ビーズ』が寸断された面でのみ浸水可能性あり)」ので、浸水領域は、芯材の発泡スチロールとシェルの間、また3層からなるシェルのそれぞれの隙間、さらにサンドイッチされた硬質ウレタン材やウッド材(これは水を吸います)に限られると考えられます。しかし壊れたのに気付いてすぐに戻ったこと(気付かずに長い浸水時間を経過していないこと)と、割れた箇所が絶えず水面下には無いノーズで、さらにはすぐに排水行為を行ったことを考え合わせれば、残る浸水はさほど大量で無さそうだと推測できます。重量もさほど増加していないことでしょう。

その程度の浸水であれば、浸水領域もさほど広くないだろうと推測できるので、内部浸水が完全に解消できなくてもあまり心配なさそう。浸水領域が広いほど芯材とシェル、またシェル相互間で「剥離」が起きますが、ストラップ周りの足元のように絶えず力がかかる箇所でもないノーズであることからも、最大の懸念である剥離に関しては心配は無さそうに思えます。

海に漂う発泡スチロールを見てもわかるように芯材である発泡スチロールが腐ることは無く、サンドイッチのウレタン材も基本腐りません。でも浸水した水が腐って変色することはあります。しかしウインドの板は「外装」されているので変色に関しては気にならない(気付かない)でしょう。なのでその心配は捨て置いて、できるだけ長持ちするように治してやる、ことを意識。

まずは排水。板を逆さにして水が出てこなくなるまで数日放置。この際、排水口が広いほど排水が促進され、さらに浸水した水も蒸発しやすいので、傷口を少し広げるべくカッターでシェルを切り取るのは効果的。そうして水抜きを行ったのち、傷口が「もう乾いてるなぁ」と確信できてから修理。

自分で治すつもりの質問者ですから、それなりの修理に関する知識は持っていると思われるので細々な説明は省きますが、ズレ(段差)を最小限にすべくサンディングすることに気をつけて。なぜなら、段差の境目にコーティングの隙間ができてそこからさらに浸水する可能性があるからです。

もし排水のために傷口を広げたとしたら、そこはシェルがはぎ取られて芯材発泡スチロールが露出しているはず。その場合、シェルの厚さ分の段差が生じているでしょうから、この段差を解消して「ツラいち」に整える必要があります。専門家はその作業を元と同じサンドイッチ構造で行いますが、素人にとってそれはなかなか手強い作業なので、2液混合で発泡するウレタン材で解消するのがいいでしょう。しかしそれにもそれなりの知識と技術が必要なので、それもまた難解な場合は、容易に手に入る1分硬化のエポキシ接着剤で埋めてしまいましょう。車のボディーのヘコミを治す「パテ」を使うという手もありますが、これは多くの場合エポキシ系ではなくポリエステル系なので、もし使用する場合は要確認して(理由は以下に)。

いずれにしてもそうして埋めた段差部をサンディングして段差を無くすわけですが、こうした作業の際には重さは気にしないように。「こんなに『塗りたくったら』重くなっちゃう」と懸念して材料をケチると、最も大切な強度再生が疎かになることが多々あるので、まずは強度重視で取り組むこと。修理でどんなに重くなってもそれは100グラムや200グラムにも満たないので(ノーズにひき肉を100グラム載せたとしても、そんなこと気にならないはず)、しっかり治すこと(今後さらなる浸水でキロ単位で重くなってしまわないように)に集中して作業を行いましょう。

その上でグラスファーバーなどの生地にエポキシ(エポキシ樹脂が理想ですが、それは混合率や硬化温度の管理が難しいので、一般的に使いやすいのはエポキシ接着剤。ただし段差を無くす際に使った1分硬化タイプではなく、5分、10分硬化タイプを。なぜなら硬化時間が長いほど仕上がりが硬いから)でコーティング。おわかりとは思いますが、その際にサーフボード修理用のポリエステル樹脂を使わないこと。パテ同様、もしポリエステル系の樹脂を使って発泡スチロールまで樹脂が浸透してしまうと、スチロールが溶けて修理不可能な状態になってしまうのでこれには絶対の注意が必要です。

通常は力のかからないノーズなので、再びのダメージを与えない限り、表面を再生するグラスファイバーは2枚重ねれば十分でしょう(6オンスの生地なら完璧、4オンスの生地でも2枚重ねで大丈夫)。とは言え本来あるべきサンドイッチ構造はその部分に関しては失われているので、強度的には再ダメージを与えない注意が必要になります。それでも、こうして修理すれば、走行中に折れることなど無い、十分な強度が再生できるので安心してください。

ただしこれらは、ダメージがデッキ面とボトム面に限っての話。なぜなら板の強度の主たるところはレイル部にあり、デッキ面とボトム面は左右のレイル面に支えられてるから。と言うことは、もしダメージがレイル面にまで至っていたとしたら、その修理にはさらなる強度が求められることになります。なのでもしレイル部も大きく破損していたとしたら、専門家に修理依頼することを強くオススメします。専門家が修理すれば今後5年の寿命があっただろうに、自分でどうにかしようとしたばかりに1年と持たずに寿命が尽きた、というのはよくある話なので、無理して自己解決してしまわないように、です。