WICKEDセッティング

QT.Hさんからの質問

S-2 MAUIのWICKEDのセッティングについて。セイルにマストを通してダウンを引いたらブームを取り付ける前にカムを入れると聞きました。それが正しいセッティングなのでしょうか。

A過去歴でも幾度か解説してきたことですが、カムセイル(セイルグレード、カムの数に関係なくすべてのカムを有するセイル)のセッティングに関して、その原則を今一度確認しておきましょう。カムセイルのセッティング手順は以下のとおりです。

1)マストを通したらダウンを仮止め。ダウンシート180センチでプーリーに3回通しとするなら、ジョイントのクリートから10センチくらい引っ張った程度。すなわち、限りなく引かないということ。

2)ダウンを引いた時にカットオフ(ブーム取り付けのためスリーブが切れている部分)の上側に行き当たってしまわないように、カットオフの一番下にブームを取り付ける。

3)アウトを引く。ダウンを引いていないため通常数値まで引けるはずは無く、しかし通常数値よりも10センチ足りないくらいまでは、ブームエンドを足で押さえて引くほど、けっこう強く引き、セイルに横方向のテンションを強くかける。

4)カムを「下から順に」押し入れる。例えば3カムとして、下2つは入ったけど一番上がどうしても外れてしまうというようなときは、まずはアウトテンションを追加して様子を見る。その際、カムがひとつでも入るとその分だけアウトが追加で引きやすくなることを理解すべし。それでも外れてしまうようなら、外れないところまでダウンテンションを追加し、同時にアウトテンションも追加して調整。こうしたカム装着時のサジ加減が理解できているか否かが、その人のそのセイルのセッティングに対する達人加減を物語ることになる。

5)ダウンを適正まで引き、ブームを適正な高さにセットし直してアウトを引く。

こうした原則を怠けて、面倒だからと先にダウンを引いてしまう人が実に多いのが現実。実際のところ、ブームを付けずともダウンを引いたらカムが入るものだから、それが正しいと勘違いしている人がなんと多いことか!ただし残念ながらこうした人はセイルを壊します。実際、驚くべきことに、「あの人が!」と思うような超々上級者がこの落とし穴にハマることも少なくないのだから、普通の人なら尚更、油断も過信もイケません。もし自分の周りで「アウトを先に引くなんて面倒だし、そんな必要無いよ」なんて言っている人がいたとしたら、その人は残念ながら「ホントのところがわかってない人」です。

カムセイルはノーカムセイルよりもダウンテンションが強いことが多く、その強いダウンテンションを、縦方向だけでなく、カムからバテンを伝わって横方向にも逃がします。すなわちカムセイルの強いダウンテンションは、カムが正しく装着されて初めて成し得る強さだということ。にもかかわらず上記の手順を省いてカム装着前にダウンテンションをかけてしまうと、ダウンテンションによって「曲がった」マストの復元力による強いテンションは逃げ場を失い、スリーブ内に隠れた一番前側のパネルであるラフパネルに集中し、特にラフパネルの前縁に強く集中してしまいます。残念ながらラフパネルは、カム装着前の強いダウンテンションに耐えられるだけの耐久性は無いのが常で(正しくないセッティングはそもそもメーカーも初期設定していないから)、結果、スリーブ内でラフパネルが前縁から断裂、さらにはその断裂がバテンポケットを伝いスリーブの外側のメインパネルまで大々的に到達するというトラブルも多々あります。実際にそうして修理に多額の費用を必要とした人も多いことでしょう。

この、ダウンを引かずにブームを取り付けてアウトを引き、カム装着後にダウンを引くという基本原則は、どのカムセイルも例外ではありません。が、ダウンを軽く引いただけで(ラフパネルにダメージを与えるほど強く引かなくても)カムが装着できるイージーなセイルもあります。ウィキッドはそこに位置するということ。それは使う側からすれば、面倒解消、とても楽、となります。そうした意味では、これまでのカムセイルの面倒な部分を深く研究し、その解決を含めて使い手に優しさを供給しようと尽力する作り手の力強さも感じらます。

ウィキッドは「ブームを取り付ける前にダウンを引いてカムを入れなければならない」ではなく、カムセイル特有の面倒な手順を踏まなくても、「ブームを取り付けなくてもカムが入りますよ」というユーザーフレンドリーさを持っています。とは言えカムセイルであるのだから、出来うるならば正しい手順でセッティングした方が、より長寿が約束されることは疑いありません。すなわち、出来れば普通にセッティング。でも無精したければそれでも大丈夫なのでご自由に、と解釈すべきでしょう。