手(腕)の疲れ

QS.Oさんからの質問

週2程度でウインドを楽しんでいますが、プレーニング中、かなり強くブームを握っているようで、指から腕までの負担が非常に大きく常日頃感じています。上手な人は片手離しも当たり前にできるようですが、私の場合、離すことができたとしてもそれは一瞬芸で、それ以上は無理です。小柄なためブームの高さはおおよそ目からオデコのあたりで、ハーネスラインの取り付け幅は15センチくらい、取り付け位置は第1バテンのリーチ側先端からマストの最下部を結んだ線上。腕の疲労の原因が何なのか、その原因がブームの高さにあるのか、ハーネスラインの設定にあるのか、それとも違う理由によるものなのか、まったく原因究明できずに悩んでいます。

Aまずハーネスラインの設定について。たしかに以前、雑誌で「ハーネスラインの設定位置の基本は」との記事があり、その結論として、質問者がそうしているように「第1バテンのリーチ側先端からマストの最下部を結んだ線上に」というのが示されていたことがあることは覚えています。それは概ね間違いではありませんが、あくまで目安であって、どのセイルにも、またどんなセッティングにも、さらには誰にでも合致する確定的要素ではありません。なぜならそれは理論的に証明できず、あくまで経験値としての話だから。なのでその目安を元に自分なりにチューニングすることが大前提のマニュアルだと理解しておきましょう。

ハーネスラインの取り付け幅、またちょっと高すぎと思えますがブームの設置高さも含めて「それじゃダメでしょ」ではない許容範囲内であることを思えば、質問者の悩みの原因は2つに絞られると思えます。

ひとつは間違えたチューニングによる不必要なセイルパワーの増大。ダウン不足であったり、アウト不足であるとセイルは不必要なオーバーパワーを発生させ、それが乗り手に大きな負担を強いることが多々あります。特にバックハンドパワーと呼ばれる「後ろ手への負担」。バックハンドパワーが強すぎるとセイルは絶えず「開こう」とし、開くセイル(向こうへと遠ざかろうとするブームエンド)に反比例して、マストが手前に「寝よう」と傾きます。それはすなわちセイルが開いてマストが手前に寄りすぎた「カイトセイリング」状態。これだと前の手どころか後ろ手も危なっかしくて離せません。後ろ手を離した途端にさらにセイルが開こうとしてしまうからです。

その解消としては、正しくダウンを引く、正しくアウトを引くこと。おおよそテンションが不足しているのが常と心得るのが良いかもしれません。正しいチューニングに関しては過去歴でも繰り返し述べてきたことですが、それは難しくもあり、しかし今一度再確認してみて損は無いと思います。

もうひとつ、これの方が現実に即していると思われますが、ハーネスラインが長過ぎることによるシワ寄せ。質問者がどのようなハーネスラインを使っているのかは質問内から判断できませんが、そうでないとしたなら、ぜひともアジャスタブルハーネスラインの使用を推奨します。それも中途半端なアジャスタではなく、「ブームを握って肘をハーネスラインにかけたとき」隙間ができる長さから、丈が足りないくらいまで(手首から肘までの長さより)短くアジャスタできるものを。そのアジャスタ差は最低でも10センチ以上。それを使って冒険心豊かに思い切って短く調整して様子を見ます。それをしたなら、今より相当に短いところで「調子良いじゃん」と感じられる長さに巡り会える可能性が十分に考えられるからです。

さらにハーネスラインに関して付け加えるならば、もしかしたら、ですが、15センチという取り付け幅が狭すぎるのかも?ライン取り付け後ろ側を、幅が20センチくらいになるまで後ろにズラしてみるのも一案かもしれません。ちなみに現在、多くの人のハーネスライン取り付け幅は質問者同様に15センチ程度と狭いですが、私のは22センチほど。あのビヨン・ダンカベックもけっこう取り付け幅広く乗っているので、みんな狭いから自分も狭くしないといけない、というような固定観念に陥らないことが大切に思います。出来る人は誰に何を言われようと自分の信じるライン幅で乗っています。ハーネスラインとは、そうした「自分なり」が最も大切だということです。

最後に、チューニングが正しく、ハーネスラインも的確であるとした場合、ブームの高さが悩みの原因なのかもしれません。背が低い=ブームを高く、という公式はまったく成り立たず、なぜならブームの高さは自分の身長に合わせて設定するものだから。たしかに高くしたら小柄な身体を有効利用できそうに感じますが、実際その効果はさほど望めません。それどころか高すぎは、身体への負担が増える、オーバーで踏ん張りにくくなる(高いと身体が伸び切って重心が高くなってしまうから)など逆効果のマイナス面の方が多いです。

通常、鼻先くらいの高さにブームを設置して、それでプレーニング中(ストラップに足が入って、セイルがアフターレイキした状態)は身体の正面にブームが位置します。対してオデコの高さにブームを設置すると、プレーニング中もブームは高い位置にあり、すなわち両手が肩より高く「上がった」状態にあります。その場合、心臓よりも両腕が高い位置にあるのですから、両腕に十分な血液を送りにくくなります。重力に逆らって心臓から血液を送るのは身体的に大変な作業。対してプレーニングフォームにおいて両腕が肩程度の高さであるなら、心臓から送られる血流は重力に逆らうことなく両腕へと供給されやすくなります。レーサーはこれを常識とし、例えば弱風でパンピング必須のレースでは両腕が心臓より高くなりすぎないないように少しブームを低くして両腕への血流を確保することで身体的能力を高め、対してパンプの必要無い順風から強風では、フォームが「決まり」リラックスして乗れるように、パンプ必須時よりも少し高く(いつもの位置に)設定します。

質問者の使う道具が不明なので、ブーム高さに関してさらに追記しておきましょう。簡単に言って「ラージセイルほど高く、スモールセイルほど低く」また、「速く走りたければ「ちょい高く」、操作性重視なら「ちょい低く」。それを最も示しやすい例が、8.0を使うスラロームではブーム高さは目から鼻先上、対して4.5のウェイブでの高さは「鼻下から顎」と異なるという事実でしょう。同一人物であっても使用道具が違えばブーム高さも違いますが、それにしても質問者はちょっと高すぎに感じます。

まとめましょう。まずはチューニングを再確認。同時にブームを鼻先の高さまで下げて、且つアジャスタブルハーネスラインを使ってラインの長さを模索。同時に取り付け幅もチェックできれば尚善し。1回や2回の試しで結論に達することはできないと思いますが、たぶんひと夏それらの試行錯誤を継続したなら、夏日が一段落する頃には質問者の悩みは解消されているだろうと思います。