キープフラットとヒール

(スラロームでのボードトリム)

QTさんからの質問

スラロームのボードトリムについて。「キープフラット」とは昔から言われていることですが、最近の雑誌ではノリオさんが「ヒール」を提唱しています。どちらが正しいのか両者の違いを含めて教えてください。

Aセイリング中にセイルが風下側に傾き、それに連動して船体が傾いているヨットを思い浮かべてください。これがヒール。ウインドで言うと、風上側レイルが「持ち上がり」、風下側レイルが水面に「沈み込むような」状態です。これはセンターボードを持つ板(今ならテクノ、昔ならレースボードなど)では活用されていました。それらが活用されるのはクローズに代表される低速域限定。理由は、低速において水面を走るものは「接水面積が細くて長い」方が速いという理論によります。これを高速走行が常のスラロームボードで行うと(風上側レイルを持ち上げるように板を傾けてしまうと)、風下側レイルが長く(テイルからジョイント付近まで)水面に沈むだけで、スピードダウンを招くばかりか真っすぐ走ることさえ難しくなってしまいます。

則夫プロが言うところのヒールはこれとは異なります。彼の言うヒールは限界最高速でのプレーニング時(完プレ状態)での話。混同すると質問の回答が求められないので、両者がまったく異なることを意味するのだという理解がまず必要です。

話をわかりやすくするために単純に考えてみましょう。板は完プレ状態になるとフィンとテイルの少ないボトム面だけを水に接して走ります。その他は完全に浮き上がった状態で、すなわち水面との抵抗はフィンとテイルボトム面だけ。それは、板が舞い上がるかどうかの極限ギリギリまでスピードが出て接水面積が最小になった状態です。(たぶん多くの人がその状態を速すぎて怖いと感じるでしょう)

そうした状況を日常体験している人は(そうでない人はここから先の話は理解しにくいかもしれません)、限界状況から板が舞い上がってしまう場面を思い浮かべてください。チリチリと舞い上がるかどうかの瀬戸際をキープしていた板は、まず風上側レイルが浮き上がり、次にノーズが浮き上がって舞い上がります。それはたぶん連続して瞬間的に起こる事象ですが、この「風上側レイルが浮き上がり」というのが則夫プロの言うところのヒール状態なのです。このとき、それまで水平に水面と接していたボトム面は、風上側レイルが浮き上がったことで風下側のテイルボトム面だけを接します。それすなわち接水面積(抵抗値)の減少。そうして接水面積が減った分だけさらにスピードが伸びるということです。その状態を足裏から感じて「保ち」ます。人並みはずれた技量あって初めて成し得る技だと言えるでしょう。

完プレ状態でのヒールがキープできると、表層水面に風下側テイルエッジが「効き」ます。それが板の横流れを防いで直進性をより強固にすることで、さらにスピードがアップします。

このようにスラロームにおけるヒールは、それが感覚として理解できる高いレベルの人たちに向けた話。それに至る前段階として、まずはテイルのボトム面を水面と水平に、しかし出来るだけ最小接水面積で(テイルとフィンだけで)走るという段階があります。「キープフラット」はそうした(たぶん大多数の)人への言葉。ウネリを超えた瞬間やブローが途切れたときなど、どうしてもわずかながらアンヒールしてしまうだろう彼らが、スピードロスの最大の元凶であるそのアンヒールを「無」にするために必要な意識がキープフラットということです。

ヒールはキープフラットが完璧にできるようになったその先にあるより高度な技術、たぶんそれはホームゲレンデで最速と呼ばれるような人たちが取り組む技術でしょう。