危機回避

QY.Hさんからの質問

強風オフショアの中、ひとりでプレーニング中に不幸にも沖合でマストブレイクしてしまった場合、どのような行動をとるべきなのか教えてください。

Aこれは誰にでも起こりえるトラブルです。事実、私も幾度かそうした場面に出くわしています。オフショアでマストブレイクした場合、「どうしよう」と躊躇し、時間を浪費するほど流されてしまうので、即決即断がとても大切。まず最初に考えるべきは、「助けを待つか」「自力で帰るか」です。

漁船の行き交う場所やプレジャーボートの通るような海域ならば助けを待つのが良いでしょう。近くに定置網などがあればそれにつかまり、アップホールラインなどでそれ以上流されないようにつなぎ止めて、ボードに腰掛けて両手を広げて頭の上で大きく振ります。これがレスキューの合図。このとき折れた部分からマスト内に水が浸入してセイルが沈み、ボードがひっくり返ることがあるので、折れたマストはスリーブから外して破棄するのが良いでしょう(廃棄物であるマストをそうするのは望ましくありませんが、生命の危機に関してそんなことも言ってられません)。現在のマストはカーボン製で、その折れ口はささくれて鋭く、カーボンがトゲのようになっているので、破棄する事で思いがけずの怪我を回避するという意味もあります。もし折れ口がスリーブを突き破ってつっかえている場合は、スリーブを引きちぎってでもマストを外し、セイルは丸め、ブームと一緒にボードに載せておけば、レスキューの際の時間短縮にもなります。

自力で帰る場合は、まず余計な体力を消耗せずにパドリングできる体勢を作らなければなりません。マストを外して破棄し、セイルをしっかりと丸め、さらにパドリングの邪魔になるジョイントとジョイントベースも外します。それらをボードに載せたら(この作業は自分がボードに腰掛けていると出来ずに水につかって行わなければならない場合があるので、そのときはボードと離れてしまわないように細心の注意を)、アウトホールやダウンホールのシートを使ってボードにぐるっと回して止めます。この作業は、パドリング中にひっくり返った時に、ブームやセイルがバラけてしまわないためのもの。パドリングでひっくり返る度にバラけたセイルなどを拾っていたら、せっかくパドリングをした分をまた流されてしまうからです。ちなみにジョイントとベースはパドリングの邪魔にならない両足の間に置くのが良いでしょう。またボードを一回りするほどのシートが確保できないと困るので、普段からハーネスのバックポケットに2mほどの予備シートを入れておくと良いでしょう。実業団の大会で5mのシート常備が義務化されているのは、こうした「まさか」のときのためでもあります。

オフショアでパドリングする場合は、出艇場所に無理して戻ろうとしないのが鉄則。とにかく最も近い岸を目指しましょう。風に流されることを計算することも忘れずに。しかし万が一、それでも岸に近づかず益々流されるとしたら、さらにつかまれるようなブイも見当たらないとしたら、あとは救助を待つしかありません。そう判断したなら体力を温存するためにもそれ以上の無理なパドリングはせず、アップホールラインを外して、片側を後ろ足ストラップに、片側を足首をつなぎます。流されて最悪の結果に陥った過去のデータを見ると、「ボードと離れてしまって」という原因が最も多く、また特に体力を消耗する冬期は、ボードから滑り落ちて「わずか1mが泳げなくて」というデータもあります。そうした場合でもボードと体をつなぎ止めておけば、泳がなくても紐を引っ張るだけで、貴重な浮力体であるボードが手元に届くということです。ちなみに過去、この方法を実践したことにより生還できた実例があります。