速くなるために

QT.Oさんからの質問

同じ体格で同じ道具でも、よりスピードが出せる人は、乗り方の違いで速いのか、もしくはそうした人は普通の人がオーバーと感じる風でも乗りこなせるから速いのか、どちらでしょうか。

A乗り方の違いが速さに影響するのか、オーバーで乗れるから速いのかとの質問ですが、どちらもその軸は同じところにあります。すなわち、乗り方が良ければオーバーも乗れる。乗り方が良いから速く、同時にオーバーでも乗れるからさらに速い、という関係。

乗り方とはフォームとも言い換えることができますが、それはセイルトリムとボードトリムに直結します。例えばセイルトリムが不十分で引き込みが曖昧だったとしましょう。するともちろんスピードの伸びは期待できません。同時にセイル本来のツイスト機能の発動率が低下するため、リーチが開きにくくなって結果、オーバーブローを受け止め過ぎてしまうからオーバーにも弱い。対してフォームが安定していてセイルトリムが完璧な人は、引き込みが十分でスピードが出て、さらにツイスト機能が効率よく発動できるからリーチが適切に風を逃してくれてオーバーも乗りこなせる。だからさらにスピードが上乗せされる、という好循環。

ボードトリムも同様。板のリフト(浮き上がり)がちゃんと出来る人は、板と水面との摩擦が少ないから速い。それだけでなく、摩擦というブレーキがかかると板が「つんのめる」ように走るためセイルパワーが体に負担をかけますが、リフトして低抵抗で走れれば、例えるなら氷の上を滑るように、オーバーパワーでさえ体感的な負担が驚くほど軽くなります。これこそがオーバーを味方にする法則。見るからに小柄で非力に見える人がオーバーを難なく乗りこなしているとしたら、その人はこれが出来ているからだと解釈できます。

早い話、速さはその人の技量次第ということ。そしてその技量とは、乗り方に代表されるテクニカルなところと、道具の使いこなし=チューニングという、2つの要素から成り立ちます。

ウインドは道具を使うスポーツ。なので道具をいかに使いこなすか、が重要なのは言うまでもありません。もちろん体格的な違いはそこに少なからず影響を及ぼしますが、同じ体格で同じ道具を使うのであれば、その使いこなし方に上手のためのヒントもあります。

今のチューニングは正しいのか?ダウンテンションは?アウトテンションは?ブームの高さは?さらにはハーネスラインの位置や長さは?それらを知るには、まずMinとMaxを知ることが重要。例えばブームの高さなら、今よりも極端に低くして乗ってみる。次に極端に高くしても乗ってみる。2センチやそこいらではなく、10センチくらい大胆に変えて試してみる。すると「さすがにこれは低すぎ」「さすがにこれは高すぎ」という上下の限界値がわかります。その、低すぎ=Minと、高すぎ=Maxの間に自分の適正な高さがあることが明確にわかります。その上限と下限を徐々に狭めることで、最終的に「自分に最適なのはココ」が見えてくる。対して上限と下限が不鮮明なままチマチマと(大胆な変化に尻込みして)微調整をするだけだと、ちょっと高くしてみたり低くしてみたり、でも結局どの高さが良いのかわからない、という迷路に迷い込んでしまいます。これが多くの人がチューニングの達人になれない落とし穴です。

さらに、試す箇所は「1日、1箇所」という鉄則。例えばその日、ブームを高くしてみて、同時にアウトを引いてみたとしましょう。その結果、昨日よりも調子良く乗れたとする。でもなぜ調子良くなったのか、その原因がブームの高さにあるのか、アウトの調整にあるのか、がよくわからない。そうならないためには、複数箇所を同時にチューニングするのではなく、1箇所だけに集中してチューニングを煮詰めることが大切です。

今の時代、多くのプロや超上級者がネットにその動画を配信しています。それらを参考にして、もしくは近場の上級者を参考にして、自分のフォームとの違いを検証し、まずは理想的なセイルの引き込みや板のリフト状態などをイメージしましょう。そして次の週末にその理想型に少しでも近づけるように(理想を頭に繰り返し描きながら)フォームの改善を試みる。これがテクニカルな部分での上達への近道。

でも真似しようにも全くできないかもしれないかもしれない。「あんなフォームで、あのくらいセイルを引き込んで乗りたい」と願い、何ヶ月も練習してるのに全くそこに近づけないとしたら、技術追求をひと休みして、発想を転換してチューニングに目を向けてみましょう。技量、技術とチューニングは密接にリンクしてるのだから、技量の足踏みの原因が道具にあるんじゃないか?と疑ってみる。実際に、5年もスピードの伸びが頭打ちで悩んでいた人が、それまで頑なに守っていたブームの高さを大胆に10センチ高くしただけで、その日のうちにトップスピードが時速に換算して5キロ以上も速くなったという嘘のような本当の話もあるくらいなのですから。