|
|
Q:Sさんからの質問 少し前の話になりますが、逗子レーシングの夏の本栖湖合宿のとき、コッソリ柴崎さんを追走させて頂きました。ところがブローが抜けた途端に、柴崎さんがそのまま走り続けてるのに私はスローダウン。同じセイルサイズだし、小柄な私は体重にしてたぶん10キロ程度は軽いはずで、普通に考えれば私の方が止まらずに走り続けられて当たり前だろうという場面での、あまりの差に愕然としました。もちろん技量的にまだまだであることは認識していますが、どうすればあれほどスピードを持続できるのでしょうか。 |
A:風が抜ける場面、すなわちブローホールでのスピード持続に関しては、みなさん同じような悩みを抱えているようです。まさしく逗子レーシングのチーム内でもそんな話をしていたところなので、その内容をそのままお伝えしましょう。 まず最初に認識すべきは、ウインドサーフィンは「風よりも速く走れる」乗り物だということ。例えば風速7m/sの風(時速に換算すると約25km/h)の中を時速50km/hで走れる人はさほど珍しくもありません。すなわちこの場合で言えば、実際に吹いている風速の2倍のスピードで走れるということ。この延長線上に、風が途切れた瞬間もしくはその直後(俗にブローホールと表現されます)での、スピード持続のヒントがあります。 たぶん多くの人がウインドを始めたその日か、もしくは遅くとも2日目にレクチャーされただろうイラストが下。赤は「真の風」、青は「進行風」、そして緑は「見かけの風」。真の風とは、まさしく今吹いている風のこと。また進行風とは言うまでもなく走っているときに進行方向から受ける向かい風。そして見かけの風とは、真の風と進行風との合力で、走っている際に実際に自分が受ける風のことです。 前述したようにウインドサーフィンは(プレーニングしている時)、真の風よりも速く走れるため、真の風を示す赤矢印よりも、青で示す進行風の方が2倍、もしくはそれ以上のベクトルを持ちます。そしてその合力である緑の見かけの風である実際にセイルに受ける風は、相当に進行方向から吹き込みます。イラストの赤矢印は真横から、それはアビームを示しているにも関わらず、実際に受ける風(緑矢印)は相当に進行方向から受けることがイラストからもわかるでしょう。 このベクトル図で軽快にプレーニングしてたとして、突然ブローが途切れたとしましょう。それはすなわち、赤矢印が突然弱くなった(ベクトルが短くなった)ということ。でもブローが抜けても、板は「惰性」で(ごく短い距離ではあっても)それまでのスピードを持続して走り続けます。ブローが抜けた途端にピタリと止まるなんてことはありません。少なくとも「やばいっ」と思ってる間くらいは走り続けます。その瞬間のベクトル図が下のイラスト。上のイラストと比べると真の風(赤)が弱くなったのに、惰性で走り続ける板が受ける進行風(青)は「まだ継続していて」、なので真の風と進行風の合力である見かけの風(緑)もさほど弱くならず、でもその見かけの風は「より進行風に近く」すなわち「より前から」セイルに吹き込む向きに変化したのがわかるでしょうか。これをまとめて簡単に言うなら「風が途切れた瞬間、風は突然『前から来る』」。 風が途切れた瞬間に「前から来る」わずかな残り香な見かけの風を多くの人は逃して、結果として止まります。でもその「前から来る風」を利用できたなら。止まるのが当たり前の中で、自分だけが「今しばらく」走り続けることができます。 その方法は2つ。ひとつは「ベアする」もうひとつが「クローズのフォームへと移行する」。 風が途切れた瞬間「風は前から来る」のだから、ベアすればその風を受け続けやすくなります。そのベアのタイミングは理想としてはブローが途切れる少し前。「まもなく風が途切れそう」と思ったら、事前に少しベアしておくという行為。 また、それまでアビームで走っていたのに突然風向きが前からに変化するとは、アビームだったはずが突然クローズになったのと等しいことにもなります。それに対応するには、アビームフォームをクローズフォームへとチェンジします。アビームフォームのままクローズは上れないのだから、それが当たり前の行為であることに気付くでしょう。ちなみにクローズフォームに関しては過去歴で幾度か解説しているのでそちらを参照してください。 実際にはこの2つの方法を連動して使うことが多いです。風を観察して、風が途切れそうだと思ったらその手前で少しづつベアして風が落ちるその瞬間を受け止めるべく準備。そして実際に風が落ちたら、瞬時にフォームをクローズへとスイッチ。こうして前から来る風を少しでも捕らえ続けようと努める。 何もしなかったら、風が途切れてから惰性で走り続けられるのは30メートルだと仮定しましょう。30メートル進んだところで板は完全に止まり、もちろん両足はストラップから抜かないと立っていられません。でもベアとクローズフォームという2つの方法を活用すれば、ブローが抜けてから100メートル走り続けることができる可能性を手にできます。もちろん100メートル進んだら棒立ちになってしまうのですが、もしかしたらその間に次のブローが来るかも。30メートルで止まった人と比べると少なくとも70メートルも先まで走れただけでなく、そのわずかな間に次のブローが来たとしたら。そこはまだ両足がまだストラップに入ったままなので再加速もスムーズ。一度止まってしまったら再加速には7メートルの強さの風が必要だとしても、どうにか走り続けている状態からなら5メートルの風で再加速できることもあるでしょう。それは俗に「風を乗り継ぐ」と表現されます。 こうして風を乗り継ぐことで、あたかも風が吹き続けているかのごとく走り続ける。たぶん質問者は、私がこうした行為を連動させて「ウマく走り続けることができた」場面を目にしたのだと思います。 |