ウォータースタート総括

QS.Nさんからの質問

94リッターのフリーウェイブで吹いた中、ウォータースタートの連続なのですが、なかなかセイルトップが上がってくれません。ブームを低くしてテイルに載せれば難無く出来るのですが、それだとプレーニングで低過ぎてしまいます。頭でセイルを持ち上げるようにと指導されもしましたが、ラフ海面ではそれも困難に思えます。ブームを適正な高さにして、テイルにブームが載らない状況からウォーターするときのコツを教えてください。

Aウォータースタートに関しては過去歴で解説してありますが、今回は当時の写真やイラストを再掲載しながら総括してみたいと思います。

まず、一番手っ取り早いのが自分の腕をテイルに見立てる方法。これに関しては過去歴のウォータースタート1で解説しています。

後ろ足ストラップを持ち、肘を上げるようにして自分の腕をテイルの延長と見立ててブームを載せる方法。リサーチするとこうしてウォーターをする人は多々いるようですが、でも出来るならブームをテイルや、無理して腕に載せるなどせずとも、一気に水面上に持ち上げたいところでしょう。

質問の中に、セイルを「持ち上げる」という言葉がありました。もしかしたらここに質問者の勘違いがあるのかもしれません。ウォーターにおいてセイルを「持ち上げる」ことはありません。セイルは「持ち上げる」のではなく、風に「持ち上げてもらう」、言い換えるなら風に「浮き上がらされてもらう」。ましてや頭でセイルを持ち上げるなど聞いたことさえありません。

そのためにはマスト側からブームエンドに向けて「風を流す」もしくは「風を入れる」ことが重要。セイリング状態を考えればわかるように、セイルにはマスト側からブームエンド側に風が流れることで揚力が発生します。それと同じようにウォータースタートにおいては、マスト側から「セイルの下に」「風を入れてやる」こと。それがあって初めてセイルは「持ち上げる」のではなく「風の力で浮き上がり」ます。これは当たり前にウォーターができる人にとっての常識。テイルに載せるなどおかまいなしに、また板がどっちを向いていようが関係なく、特に、整えた板やセイルの向きがあっという間に「そっぽを向いてしまう」ラフ海面においては、まずはセイルを浮き上がらせ、セイルに風を入れた状態になってから、おもむろに板の向きを整えるという手順が正しいです。

下のイラストは過去歴ウォータースタート3からの引用。セイルを風に持ち上げてもらうには、風に対してマストをほぼ垂直にポジショニングすることが大切(イラストの板の向きは無視してください)。そうすることで、わずかにマストが水面から持ち上がった途端、風がセイルの下側に流れ込んでセイルが浮き上がろうとします。

でもたぶんそのとき(多くの場合において)ブームエンドが水面下に潜り込むように、その潜り込んだブームエンドを基軸にセイルが「裏返ってしまう」ことでしょう。それは失敗ではありますが「セイルに風を受けることができた」という意味では大きな前進になるはずです。

ではセイルが裏返らないためにはどうすれば良いか。そのためには、セイルを「持ち上げる」のではなく、セイルを水面上を「舐めるように」水面から「引き抜く」という意識が重要になります。最初の写真に戻って解説するならば、「持ち上げる」とは真上に向いたベクトル。でもこれだとセイルが裏返ってしまうので、そうならないためには、風上方向へと「水から引き抜く」意識を持ちましょう、ということです。ちなみにそれに関しては、過去歴のウォータースタート4で解説しています。

マスト手(前の手)でセイルを上に持ち上げるのではなく、風上側に「引き抜く」ように。その際、風上に向けて立ち泳ぎし続けることも大切。風に流されるとブームエンドが「喰って」セイルが裏返るが、マストを引き抜く動作に、風上への立ち泳ぎという動作が加わることでセイルの裏返りを回避しやすくなる。その2つの動作(引き抜くと強く風上側に立ち泳ぎする)は、パワー全開で一気に行う必要もある。ダラダラの動作だとセイルが上がらない、上がったと思っても裏返る、になりやすい。

最後に、ウォータースタートでは水面上にギリギリ顔が出てる状態なので視線が非常に低く、そのため正確な風向きの判断が難しく、わずかに見える景色や波の向きなど、数少ない情報を元にして風とセイルの向きを認識しなければなりません。それゆえ、慣れ親しんだホームゲレンデでは難無くウォーターできるのに、初めての場所ではウォーターに手間取るという現象も少なくありません。

また、風の強さによるセイルの「引き抜きポジション」に違いがあることも覚えてくと役立つでしょう。風が弱い時はセイルの下側に風を存分に取り込んでやるために上記解説のように風とマストを直角にウォーターを開始しますが、風が強いとセイルが裏返りやすくなるため、風が強くなるほどマストトップを風上に向けてやります。そうすることでセイルの下面に取り込む風の量を調整してやります。

こうして言葉にすると簡単そうですが、実際はなかなか上手くできないことでしょう。でも繰り返しの失敗から学んで、やっと達人になれるのがウォーターというテクニック。その道中、上達に足踏みしてイヤになることもあるかもしれませんが、諦めずにトライし続ければ必ず要領を習得できるはずなので、まずは試行錯誤を楽しみながら多くの失敗を経験しましょう。でもそこから先に進むのに(繰り返しますが)大切なのは「風とセイルの向きの認識」「セイルを引き抜く動作」それと絶え間ない「風上への立ち泳ぎ」であることをお忘れなく。