ルーム

QWさんからの質問

レースにおけるマーク回航時(特にダウンウインドスラローム)に混戦状態となり、危険な状態になることがあります。それを避けるためのルールとしての「ルーム」について具体的にご教授ください。

Aレースにおけるマーク回航については、ダウンウインドスラローム/アップウインドともに共通して2つのルールが現存しています。

まず第1が、プロを中心としたPWA(Pro Windsurgers Association)系のルールである「オーバーテイキング」。これについてはバックナンバーのオーバーテイクタクティクスで解説しているのでそちらを参照してください。このオーバーテイクルールは、現在国内においてはプロ選手会関連のジャパンサーキットなどで使用されているルールで、ここには「ルーム」というルールは存在しません。

もうひとつ、国際協会であるISAF(International Sailing Federation)のルールには「ルーム」というルールが存在します。2001〜2004ルールブック上のことなので、新しく発行される2005〜2008ルールブック上、どのような変更がなされているかを確認する必要がありますが、これを掲載した時点(04年12月)ではルームというルールがあり、これはフォーミュラクラスのレースなどで使用されます。詳しくは以下に記すとして、このように大会ごとの使用競技規則によって使用ルールに違いがあるので、大会参加の際には大会実施要項を確認して、どちらのルールが使用されるのか確認しておく必要が非常に大切です。

ISAFのルームルールについて。これは2001〜2004ルールブックの第2章、C節、18に詳しく記されているので、レーサーの絶対条件としてルールブックを手に入れて詳しく確認してもらうとして(大会参加するのにルールブックを持っていない人がいますが、ルールを知らずに勝てるほどレースは甘くありません)、ここではその基本概念について説明しておきます。ちなみにルールブックはヨット系のショップで手に入れることができますが、もし近場にそうしたショップがない場合は、インターネットでJSAF(ISAFの国内組織)を検索し、そのページから注文することも可能です。

ルームとは、複数の艇がマーク回航するときにトラブルを避けるためのルールです。その主なところは、「マークの2艇身内エリアに入ったときにオーバーラップしている場合、内側の艇に権利がある」というもの。すなわち、マーキングにおいて並んでアプローチした場合、外側の艇は内側の艇に対して、マークを回るための時間的/空間的なスペースを与えなければならないということで、イラストにすると以下のようになります。

マークから2艇身エリアに入ったときにオーバーラップ(並んでいる場合/詳しくはルールブックもしくはバックナンバーで確認のこと)している場合、外側の艇(B)は内側の艇(A)がスムーズにマーク回航できるだけのスペースを与えなければならない。

2艇身に入ったときにオーバーラップしていてルームの権利が発生し、その後にオーバーラップが解けたとしても、その権利はマーク回航終了まで継続して有効であることも覚えておこう。

ただし、マークから2艇身エリアに入ったときにクリア・アヘッド/クリア・アスターンの関係であった場合は(クリアアヘッド/クリアアスターンに関してはバックナンバー参照)このルームの関係は成り立たず、クリアアヘッド艇に権利があります。ようするに、ルームの関係が成り立っていないのに無理にインサイドに突っ込むのはルール違反ということで、それによってトラブルがあった場合、帆走指示書に従って抗議を出せば、ルール違反者を失格にできるということです。これをイラストにすると以下のようになります。

マークから2艇身エリアに入ったときにオーバーラップしていない場合、クリアアスターンの艇(A)はクリアアヘッド(B/先行艇)の艇を避けなければならない。

よくこのA艇の状態から無理矢理インを突く人がいるが、それは明らかなルール違反。いかにマークとの間にスペースがあっても、クリアアスターンの位置であった限り(2艇身に入ったのちにオーバーラップしても権利は発生しない。あくまで2艇身に入ったときにオーバーラップしていることが条件)、先行するBのマーキングの邪魔になる行為は失格となることを肝に銘じておくべし。

ルームのルールにはすでに説明したように「マークの2艇身エリアに入ったときにオーバーラップしている」という条件が付きますが、実際に現在のハイスピードなウインドのレースでは(スラローム/アップウインドかかわらず)、マークから2艇身に入ってからどうこうすることは不可能でしょう。スピードが速いために、2艇身というわずか5メートルそこそこの距離は、まばたきする間もなく通り過ぎてしまうし、2艇身ではすでにジャイブの体勢に入っているはずです。すなわち、2艇身というルームの権利が発生してからの回避行動などは実質不可能なので、それ以前から相手との位置関係を把握した上で、早め早めの回避行動をお互いが考えるべきです。現在のハイスピードマーキングでぶつかり合えば、道具のみならずセイラーにも大きなダメージが及ぶはず。そうしたトラブルを回避するためのものがルールなのですから、すべてのルールの基本にある(俗に言うところの)スポーツマンシップを忘れずに、お互いが楽しく且つ真剣に競技するのが一番のルールだと思います。