連載コラム


微風を楽しむ、というトレンド

 ウインドは「吹いてナンボ」のスポーツだ。言い換えれば、プレーニングしないとつまらない。微風フリースタイルや、風が弱くても波に乗れれば、のような楽しみもあるが、これは「走る」というウインドの原点から外れるので、ここでは話の外に置く。となると、やはり風が弱いと面白くなく、せっかく海に来ても出ないとか、吹きそうもないから海にさえ来ない、ということが起こる。その結果、海から足が遠のく。そして、吹かない日が続くほど足が遠のく人が増える。

 近年、ウインドの道具は、ショート&ワイドなどのコンセプトも含めて「プレーニング」に比重を置いてきた。もちろんそれは我々に数えきれないほどの恩恵をもたらしてくれた。が、微風は置き去りにされてきた感がある。唯一微風について語れる道具があるとしたら、それはフォーミュラくらいなものだろう。

 諦めの対象でしかなかった微風を、どうにか楽しめないだろうか、という動きがある。より弱い風でプレーニングできたら楽しいよね、もしくは、プレーニングしなくても楽しんじゃおうよ、という動き。これは06年までは声高に叫ばれることになかった、07年のトレンドだと言えるだろう。

弱い風でプレーニングする楽しみ

 ラージサイズスラロームは、たぶん今年、深く静かに流行する。125リッター以上のボードと、8.4とか9.2などの組み合わせ。これなら今まで諦めていた風でプレーニングできる。しかも気楽に、無理なく、だ。

 MAXサイズのスラロームセイルとして9.8などもあるが、大柄な人でない限り、これは現実味がない。フォーミュラの衰退を見てもわかるように、体にも経済的にも負担のある大きすぎるセイルは誰も好んで使いたくないからだ。だから適度なところで8.4あたりが一番楽しめて妥当に思う。もちろんこれは人それぞれなので、好きにサイズを選んでかまわないのだが。

 もうひとつ、今までなら「乗れる人の一般サイズは105〜110リッターあたり」だったのが、それよりも一回り、もしくは二回り大きなボードを使おうという動きもある。ショート&ワイド・デザインの確立によって乗りやすくなったボードは、大きなサイズでも取り扱いが簡単で、吹いても乗れる。だからこうした人たちの意識にある一般サイズは、前出のサイズとは異なり、微風からそこそこの強風までカバーできる120〜140リッターあたり、だ。

ノンプレーニングを楽しむ

Photo by Akihito Motono

 スターボードの「セレニティー」などのような「微風ボード」の登場は、今年の最大のニュースのひとつに数えることができる。スタンディングパドルボードとしてもウインドとしても使えるボードの登場も含めて、である。

 加えて、ウインドサーフィンジャパンやエグゾセの「コナ」、スターボードの「ファントム」など、センターボードを内蔵した昔でいうところのワンデザイン・ボードの復活も目を引く。ビギナーから上達後まで使えて(これはボード紹介でよく使われるフレーズだ)、その上、微風でも強風でも、あらゆる状況をマルチに楽しめるボード。さらに、その乗り味は、カムバック組にもいたって優しい、とおまけも付く。

 このコナやファントムは、普通に考えればビギナーボードである。しかし私がこれらに注視するのは、そのデザイナーによる。コナのデザインは現エグゾセ社長であるパトリス・ベルベオック、ファントムはスベイン・ラスムッセンの手による。ともにウインドサーファー・ワンデザイン当時からワールドカップ全盛時までの時代を築いたトップレーサーで、さらには千年帝王であるロビー・ナッシュもまた同タイプのボードを考えているという未確認情報もある。彼らはプレーニングオンリーでなかった古き良き時代を知る人たちで(かくいう私も彼らと幾度となく大会で手合わせ願った同時代の人間だ)、風を選ばずに楽しんだ当時の面影を、最新の技術によって形にしたのが、これらのボードなのだ。となれば、ただのビギナーボードと一蹴してしまうのは、早とちりに思える。今までのビギナーボードとは一線を画し、微風も楽しめるマルチボード、と見るのが正しいように感じるのだ。(個々のボードに関してはハイウインド07年6月号で詳しくレポートしてるのでそちらを参照のこと)

究極の微風の楽しみ方

 道具以外にも、微風の楽しみ方はあると思う。個人的には、これこそが微風をもっとも楽しめる方法だと思うことが。

 例えば、先日、三浦にみんなで遊びに行ったときの話。たまたま三浦の連中が練習するということで混ぜていただいた。わずか100mの上下のコースを、上って下ってくるレース的練習。風はほとんどなく、105リッターに7.3のスラロームに乗っていた私は、ボードのデッキにひたひたと水がかぶる状況。それは「走る」というのはあまりにお粗末な状況だったが、みんなでワイワイすることがとても楽しかった。もしこれをたった一人でやっていたとしたら。30分ともたずに道具を片付けて帰路についていただろう。

 微風フリースタイルもそうだ。もしたった一人でヘリタックをしていたら、2日ともたず飽きる。ゲコでさえ3日ともたないだろう。それらが楽しいのは、できないことを悔しいと思え、できたぞ!と報告できる仲間がいるからこそだ。仲間と一緒だからこそ、ただのヘリタックが輝きを持ち、ゲコができることが尊敬を招くのである。

 すなわち、究極の微風の楽しみ方は、「仲間」なのではないかと思うのである。