連載コラム


スピンアウト part4

 ストールの項目でも触れたことだが、リーウェイにより、フィンには斜め前から水が当たる。このとき水の当たる面(風下面)は圧力が高く、当たらない面(風上面)は圧力が低い。

 また、高速プレーニング中、ボトム面には水と空気が蛇行しながら流れている。このボトム面を流れる空気が、フィンの低圧部に流れ込む現象により引き起こされるのが、「ベンチレーション」というスピンアウトだ。

 ボードがわずかにジャンプしたとき、またウネリなどでノーズが跳ね上がったあと、ボトムに流れ込む空気量が瞬間的に増える。だからベンチレーションもまた、そうしたボード挙動のあとに起こりやすい。低圧部に流れ込む空気量が増えるのだから、それも納得できる。

 フィンの低圧部に空気が流れ込んでも、通常その空気はフィンから「剥がれ落ちる」ように取れる。しかし時として、空気がフィンの低圧部に留まり、まるでフィンの横から後方にかけて斜めに、空気の「袋」ができたようになる。このとき水面下でフィンはその空気袋と一体になり、フィン本来の形状は意味を持たなくなる。そしてグリップを失い、スピンアウトする。これがベンチレーションの原因だ。

 ベンチレーションに陥るとテイルはまったくグリップを失い、どんなに後ろ足プレッシャーを弱めてもグリップが回復しない。また、そのスピンアウトはストールよりも急激に起こり、且つ抜け方も激しい。最悪の場合は、瞬間で「逆エッジ」がかかって激沈するほどだ。

 その解消方法は限られている。フィンに貼り付いた空気袋を剥がすのが唯一の方法。だから、ジャンプするか、プレーニングをやめるか、しかないのである。ジャンプすれば、フィンの回りはすべて空気。だから空気袋はその存在を失う。また、スローダウンしてプレーニングをやめれば、空気袋は自然とフィンから剥がれ落ちる。が、これらは技術的に難しく(激しくスピンアウトしながらジャンプ!はエキスパートでも相当に困難だ)、またスローダウンするにはそれなりのスペースと時間が必要で、ストールのように簡単には解消できない。

 このように非常に厄介なベンチレーションは、フィンサイズ不足などの要因では起こらない。サイズ不足で起こるのはストールで、ベンチレーションは、フィンの「不出来」によってのみ起こると言える。フォイルの不完全さ、フィンの硬度不足(根元が柔らかすぎ)が、その不出来の主な要素。すなわちそれはフィンそのものに原因があり、ベンチレーションを起こすフィンは「使用に値しない」と判断できるということなのである。

 スピンアウトがストールなのかベンチレーションなのか、その判断は後ろ足プレッシャーを弱めればわかる。ストールならそれだけでグリップが解消する。もし解消しないとしたら、それはベンチレーション。通常はスローダウンして空気袋がフィンから剥がれ落ちるのをじっと待つしか無い。その間に沈したり、他人にぶつからないように祈り、ハラハラしながら。

 また、ストールならば、今より少し大きなフィンを使えば簡単に問題解決する。そうして道具に頼らなくても、今よりも後ろ足プレッシャーを弱く乗るように心がければ解決できる。しかしベンチレーションであるなら、そのフィンは根本的に対象外。サイズ云々ではなく、そのシリーズのフィン(同メーカー、同素材、同デザイン)には信頼感が無いと判断して、まったく異なるフィンを選択する必要に迫られる。

 同じスピンアウトでありながら、原因も解消法法もまったく異なるストールとベンチレーション。さらにはその引き金となるキャビテーション。それらの存在を知るだけで、少なからずセイリングに役立つことがあるだろう。もしこれを読む方々が、これを機会にスピンアウトへの理解が多少なりとも深まったとするなら、幸いである。

The End