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(板を見極める幾つかの方法) |
Q:K.Nさんからの質問 ウェイブ愛好家です。強風が好きで主なセイルは3.3〜4.7で冬場は楽しめるのもの、オフシーズンの弱風での保険的な板=100リッター程度で5.8まで搭載できて、良く走り良く曲がる中古ボードを探しています。 |
A:それぞれのメーカーが毎年モデルチェンジするとして、それらを、例えば5年前まで遡ってすべてを検討しようとするだけでその数は膨大。ゆえに中古ボードのすべてを網羅すべく情報収集するのは現実的に無理なため、質問に「これがお勧め」と明確なお答えができません。 そこでどうお伝えすべきか考えてみました。以下は仮想として。 行きつけのショップに年式違いの複数の質問者のターゲットになりそうな中古ボードがあったとして、その中から選ぼうとしているとしましょう。それぞれはメーカーも違えば、年式も異なると仮定します。それらを実際に試乗し、体感して決めることができればお気に入りの板がすぐにわかるかもしれません。でも、もし外見だけから判断しなければならないとしたら?その見極めのためのヒントを得る方法を解説しておきます。 まず最初に忘れてならならないのは自分がウェイバーだということ。必然、メインで乗る板はウェイブボードで、選ぶべき板に求める「良く曲がる」というのは、ウェイブボードをトレースするようなターンをしてくれる板、となるでしょう。そこで板のデザインについて考えてみます。 1)アウトライン ご存知と思いますが、アウトラインが「丸め=曲線的」なものはターン性能に優れる半面で直進性=スピード性能に欠け、アウトラインが「真っすぐめ=直線的」なものはスピード性に優れる半面でターン性能に欠ける、という原則があります。しかし板の性能はアウトラインだけで決定づけられるものではないので、それはアウトラインという限定的視点からのみの原則。しかも、実際にいくつかの板を横並びに置いてアウトラインを見比べても、たぶんその詳細な違いは相当なマニアであっても認識できないことでしょう。 しかしひとつだけ誰でもわかることがあります。それは「他と比べて群を抜いて横幅の広い板は敬遠しておいたほうが無難」ということ。その理由は以下の通りです。 例えば120リッターの横幅ワイドなスラロームボード。ジャイブでインレイルを沈めると、板が傾くことでアウトレイルが高く持ち上がります。そのときアウトレイル側の前足は、ストラップを「引き上げるように」操作します。そうでないと板の傾きが保てず、結果ターンが中途半端になってしまうから。しかしウェイブを常とする質問者の場合、この「前足を引き上げる」動作は日常でないでしょう。後ろ足でプレッシャーをかけるだけでターンしてくれて当たり前のはず。ゆえに他と比べて「横幅すごいなぁ」というワイドな板(上記に例として挙げた120リッタークラスでなく、それが100リッタークラスであっても)は日常とかけ離れた操作を質問者に要求するだろうという理由で敬遠すべきと思われます。 現在の多種多様な板の中には、マルチボードと呼ばれる他と比べて超ショート&ワイドな板や、ウェイブ系でも小波&弱風用の超ショート&ワイドな板があります。もしそれらを選んでしまったとしたら、丸めのアウトラインによる直進性とスピード性能がイマイチと感じるばかりでなく、小波に乗ってのターンでさえ、レイルが噛んだ感覚乏しく、まるでテイルジャイブのような、テイル先端で「グリッ」と曲がるピポッドターンになりがちで、すべての面において欲求不満を抱えると思えるからです。 2)ロッカー 板の中心線(ノーズからテイル先端まで板を左右二分する仮想線)のロッカーは走りとターンの見極めの大きなヒントになるでしょう。その見極めには1メートルほどの金定規を使うのがベストですが、そんな専門的なものを持っている人もいないでしょうから、バテン(チューブなどの太さ変化の無い1本もの/先端のキャップは邪魔になるので無いもの)を代用してチェックします。 ちょっとわかりづらいと思いますが、下の写真は走り系の板の中心線ロッカーにバテンを当てた状態。テイルから前足ストラップの前まで(テイル先端からおよそ1メートルくらい前まで)ピッタリとバテンがロッカーと密着しているのがわかるでしょうか。このように走り系の板は1メートルくらいの「フラットロッカー」(直線的ロッカー)を持ちます。対してウェイブボードはロッカー全体が緩やかな曲線で描かれるため(フラットな部分がないため)、このようにバテンが密着しません(すべての板がそうではないですが)。すなわち、板の後ろ半分のロッカーが直線の板は走り系で「真っすぐ速く走るけど曲がりにくく」、直線部が無い、もしくは少ない板は「よく曲がるけど真っすぐ速く走りにくい」、と想像できます。 そう言うと、走りとターンは相反して同居しないと思うかもしれませんが、質問者が求める100リッタークラスの板の場合、それを同居するロッカーが存在します。それが「テイルキック」というロッカーデザイン。テイルキックとは、上の写真で言うなら、前足から後ろ足ストラップ付近まではバテンが密着するストレートロッカーでありながら、テイル先端から1フィート(約30センチ)くらいの範囲に、わずかにロッカーがついているデザインのこと。バテンを当てた検証方法で言うなら、センターフィンボックスの前縁からテイル先端にかけて、テイル先端部でわずか5ミリほどですが「隙間ができる」ということです。 テイルキックを持つ板は、ターンの「キッカケを掴みやすい」という特徴を持ちます。例えば夏場、プレーニングできない弱風だけど台風のウネリが入っていて、波に乗りさえすれば楽しめるというようなコンディション。テイル先端まで走り系のフラットロッカーの板は、ただひたすら真っすぐ走り続けようとするためボトムターンが大きく流れてしまいますが、テイルキックがあるとターンのキッカケが掴みやすいのでスルリとボトムターンに入れるという期待値が高まります。フラットロッカー部が平水面の走りを楽しませてくれて、且つテイルキックが波の上でのターンの促進剤になる一石二鳥のロッカーデザインです。 3)テイルボトムV テイルから15センチほど前方のボトム面にバテンを当てたのが下の写真。後ろの景色がごちゃごちゃしてて(素人写真なのでご勘弁)わかりづらいかもしれませんが、左半分のボトム面にバテンが接していて、しかし右半分のボトム面には接していないことがわかるでしょうか。これもまたご存知と思いますが、これはウェイブボード特有(写真の板はシングルフィン)の「Vボトム」と呼ばれる形状。 Vボトムは、V字の頂点を軸として、ターンにおいて「やじろべい」のように左右ボトム面が傾きます。すなわちターン時の後ろ足プレッシャーによってV字頂点を軸に板が傾きやすい=レイルが入れやすいということ。しかし、V字がキツいほど傾きやすくターンがしやすい半面でスピードに乗りにくいというデメリットが発生します。その証拠に、走り系板はV字がほとんどなくフラットに近い形状をしています。すなわち、同じサイズで同じような板に見えても、ここのチェックでターン系か走り系かの想像がつくということ。そのどちらを選ぶかは、どちらが良いということではなく、個人の判断(好み)によります。 ただし注意。この見極め方法は2008年以前のシングルフィン全盛時代の中古には判断材料として非常に重宝されます。また、マルチフィン元年である2009年モデル(当時はツイン)の板の見極め(100リッタークラスでマルチフィンというとラージウェイブに限定されますが)と翌年(2010年)までは活用できますが、それ以後、現在に至るまでのマルチフィン全盛期のものについてはあまり利用価値がありません。なぜならマルチフィンのボトム形状は多種多様で、簡単に分類しての性能評価ができないから。なのでもしターゲットとする中古が2011年モデル以降のものであるなら、この見極め方法はあまり利用価値が無いことを付け加えておきます。 冒頭に記したように、もし質問者が幾つかの候補の板を試乗できるのであれば、その中から「これ」と気に入った板を選ぶべきです。その際には、これまで長々記した見極め方法は無視して、気に入ったからこそ気持ち良く乗れると自信を持って選ぶべきと思います。また、これまで乗った経験のある板の中で、「これ」と気持ちの引かれる板があるなら、同様の理由でそれを選ぶべきとも思います。しかしもし「これ」が見つからず、複数の候補板があって選択の迷路に迷い込んでいるとしたら、上記見極め方法をひとつの判断材料にしてみてください。 |