クリューの形状

QSさんからの質問

レースセイルのクリュー形状について。ガストラのVAPORとニールのRS-SLALOMではクリューの形状に違いがありますが、両者の、もしくはこうしたコンパクトクリューのメリットやデメリットを教えてください。個人的にはこの形状は革新的に感じていて、今後はこの方向へと進むものと思っていましたが、ガストラは逆戻りしています。その理由なども教えてください。

A現在のレース系セイルの特徴は、ブームとクロスするようにバテンが配され(クロスバテン)、そのバテンエンドがブームエンドの上側で、ブームエンドよりも後方まで伸びているところにあるでしょう(通称がないのでここではこれをカットクリューと呼びます)。

写真のようなカットクリューの利点は、ブームエンドより後方にリーチラインがあるため、リーチがよりしなやかに反応し、ツイストを促進してくれるところにあると考えられます。

このカットクリューの進化型がコンパクトクリュー(これもまた通称がないのでここではコンパクトクリューと呼びます)。コンパクトクリューは写真のブームエンド下部までフット部が伸び、すなわちブームエンドを内側に抱き込むようにリーチ側もフット側もエンドより後方まで張り出したデザイン。

コンパクトクリューは、フット側の面積を増やすことでフット部が司るトルク性能を高めると同時に、パワーポイントがより下に、すなわちセイラーにより近く力の中心を位置させるというのがその最大のメリットとして語られています。それは論理的に非常に納得できるところで、となるとカットクリューよりもコンパクトクリューの方が(進化型であることも思えば)優れていると強く印象できます。

しかしすべてにおいてコンパクトクリューの方が優れているとは限りません。例えばクリューの重さ。ブームエンドを抱え込むシステムに短いバテンを配したり、クリューに強度を持たせたりと、カットクリューにはないパーツを必要とするなどどうしても重量が増します。またセッティングの面倒さも否定できません。余計なパーツが加わればトラブルも増えやすくなります。

カットクリューとコンパクトクリュー、そのどちらが優れているかの議論は難しいところです。もっとも端的に判断できるのはレース系セイルが求めている「速さ」ですが、現時点では必ずしも進化型であるコンパクトクリューが優れているとは判断できない状況にあります。雑な言い方をするなら、今のところ「どっちも違いないよね」です。

ここから先は異なる意見を持つ人がいるだろうことを承知した上でのあくまで私見ですが、あまり違いがないのであれば、シンプルイズベストと思います。複雑で手のかかるモノに対して、シンプルで手のかからないモノがあった場合、また両者に性能的な差がたいして無い場合、たいていは後者の方が優れていると判断して差し支えないだろうと思えるからです。そして多くの場合、複雑で手のかかるモノはシンプルで手のかからないモノにゆくゆくは吸収合併されるのが常だからです。その流れのひとつが、一度は採用したコンパクトクリューからカットクリューへとガストラが再変更した理由なのかもしれません。どちらが良いかの結論に至るにはまだしばらくの時代の流れが必要なのでしょうが、現時点で私見的意見を述べるなら、そんな感じに思えます。