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Q:T.Nさんからの質問 国体認定ボード(ハイブリッド)について詳しく教えてください。初級から中上級者まで幅広く楽しむことができ、またダガーがあることで長距離クルージングや、風が弱まったオフショアでも浜に戻りやすいなどの安心感も含めて購入を考えています。国体がレースボードからハイブリッドに変更となった理由やレースボードの大会が無くなった理由、各々のハイブリッドに合うセイル、ダウンやアウトのカニンガムの必要性とその理由、についてもお願いします。 |
A:レースボードが世の中から消えた理由は簡単に言ってその需要が無くなったから。まず、一般の人のほぼすべての意識は「ウインドサーフィン=ショートボード」なのだから、競技用としてだけわざわざ特殊なレースボードを使わなくても、日常の楽しみの延長線上にあるショートボードでそれができるのならそれの方が一般的と考えられたから。また、国内では国体や学連などの印象でレースボードが存命していたように感じていただろう時期もありましたが、世界レベルでは7.5m2というセイルサイズは小さすぎで、特に大柄なヨーロッパの人たちには不利益だという理由もり、その存在意義を大きく後退させました。それに取って代わったのがフォーミュラです。 しかしフォーミュラは12m2もの大きなセイルを使うこと、またそれでもなお風が吹いているとき限定であることから、大柄な人にも不利益にならず、風の強弱に関係なく楽しめる(競技が行える)ものとして、新たな板が開発されました。それがハイブリッドです。ご存知のようにハイブリッドは、ショートボードの楽しさとレースボードの利点(ダガーによる微風での広範囲な移動領域)を持ち、それが広く世界から支持されたことは、オリンピックがイムコからRS-Xになったことからもわかるでしょう。 レースボードはすでに15年以上も前から製造中止で、新しく手に入れようにも不可能な状態が続いていました。学連のイムコも数年前に製造中止になりました。一時期ニュータイプのレースボードが登場もしましたが、それらはレースボード=7.5m2のセイル、ではなく、もっと大きなセイル(9.0m2あたり)を使う前提で作られていたので、これもまたどっちつかずな感じ。国内においては国体があったのでまだ過去を引きずってはいましたが、手に入れたくても世界中のどこにも売っていないものを使わなければいけないというのは不条理そのもので、結果、国体もまた新しいレギュレーションへと変更になりました。 こうして世界レベルで、また国体や学連など国内レベルでも、それまでのレースボードのポジションに取って代わったハイブリッド。そのハイブリッドには現在、オリンピック公式艇種であるRS-X、ユースオリンピック公式艇種であり学連も使うテクノ、ニールがRS-Xの普及版として開発したRS-ONE、スターボードのファントム、そして国産として国体レギュレーション用に作られたZIP、の計5つがあります(うちZIPには現在2種あり)。それぞれの特徴はアバウトに以下のとおりです。 RS-Xを走らすにはトルク=大きなセイルが必要。小さなセイルでは大きくて重いRS-Xを走らすにはエネルギー不足で、そのため公式セイルサイズとして男子9.5、女子8.5がレギュラーな組み合わせになっています。こうした大きなセイルサイズを使ってはじめて「どうにかなる」ということから考えると、一般的と言うには難しいでしょう。 子供にも扱える性能と丈夫さを持つテクノは、初・中級者には適しているかもしれません。しかしすでにプレーニングの何たるかを知る人たちにとっては、ワンデザイン競技用として使う以外の場面での、普段のセイリングを楽しむには少し性能的に物足りないでしょう。 RS-ONEは少し大きくて重いです。しかし重い分だけ丈夫。重いとは言えそれは性能に大きな影響を及ぼすものではなく、事実、国体で(選んで)この板を使う人がいることからもその性能が伺い知れます。一般の人がハイブリッドという板の恩恵を生かしてウインドを楽しみたいと思ったときには、たぶんこの板が筆頭候補になるのではないでしょうか。ただし、フィンがパワーボックスタイプのため、流通数が少なくて別フィンを使いたくても手に入れにくいと嘆く人もいます。 ファントムはあのスターボードらしく作りが複雑で外見的に玄人好み。性能はもちろん言うまでもありませんが、日常を考えるなら、何かの拍子に「角」をぶつけたら壊れそうで、耐久性という面ではちょっと扱いに繊細さが必要かもしれません。RS-ONEとは違い、フィンは広く流通するタトルボックスタイプなので、カーボンフィンを使うなど、さらなる上を目指すにはより玄人色を強められるマニアックさも持っています。 ZIPは純国体用の競技艇。性能としては相当に高いですが、国体を目指すでもない限りは耐久性を含めて身近とは言えなそうです。この板の性能を底支えする最大の要因が他と比べて2倍もあろうかというダガー。弱風時はこの大きなダガーにクローズが助けられます。ダガーが大きいと吹いたとき大変そうに思うかもしれませんが、どうせ吹いたらダガーは収納してしまうので問題ありません。ちなみにこのダガーに関しては競技的な要素なので、一般レベルに直結するところではないと思いますが、情報として記しました。 これら個々の板についての解説は、私自身がこれらに乗ったことがないので(ハイブリッド創世記にRS-Xを含めて当時の板に乗ったことがあるくらい)、オリンピックや国体に現役として参加する選手たちからの聞き取り調査をまとめました(主に北京とロンドンのオリンピック2大会出場の富沢選手からの話を尊重しています)。尚、後者の3艇種に関しては今現在の情報であることを書き添えておきます。今後、乗り込む時間が増えればまた違ったコメントが聞かれる可能性もあるということです。 ハイブリッドにはダガーの他にスライド式で前後に場所移動できるジョイント・トラッカーも付いています。このトラッカーの操作によるジョイント位置変更とダガーの出し入れ操作は連携しているので、次にその連携基本パターンについて記しておきましょう。 パターンは3つ。弱風時はジョイントが一番前でダガーはフルダウン(すべて出した状態)。ギリギリプレーニングの場合、板の接水面積を減らすためにジョイントは一番後ろ、ダガーはフルアップ(全収納状態)。完プレの場合、大きな板を抑えるためのマスト加重を強められるようにジョイントを真ん中に、ダガーはフルアップ。 ハイブリッドとの組み合わせセイルは、ゼロセイルで決まり。普通のスピード系カムセイルではトルク不足です。RS-Xほどではないにしても、どれも普通のショートボードと比べると大きくて重く、そのボディーを走らすには高速系のセイルではなく、ゼロセイルのトルク能力が必要だと誰もが口を揃えます。 ゼロセイルのようなトルク型セイルには普通のセイル以上のチューニングが必要となります。風が弱ければダウンもアウトも大きく緩めてトルクを高め、しかしそのままでは吹き上がった時にすぐにオーバーパワーで乗れなくなってしまうので、風が上がるほどにダウンもアウトも引いてトルクを弱めてスピード性能を高めるというチューニング。それは競技だけの話でなく、例えば沖でオフショアが強まったときのことなどを考えてもカニンガムが必須であることを示しています。尚、カニンガムについてはチューニング・ナウのバックナンバー「アウトカニンガム」と「ダウンカニンガム」を参照してください。そちらに基本的なセット方法などが記載されています。 カニンガムのケースバイケースのチューニングに関しては、たとえ同じセイルを使っているとしても、体重やレベルなど個別な要素で大きく異なるので、実際に試して乗り込んで、自分で発見するしかありません。その際には、周りに国体の選手などがいるようならば、そうした人のアドバイスに耳を傾けるのも必要でしょう。 |
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