|
|
Q:J.Fさんからの質問 現在使用中のニールのRS SLALOMが痛んできたので買い替えを検討中。ニールはカムの返りが今ひとつなので他メーカーに替えようと思っています。候補は順に、マウイセイルTR9、ロフトセイルRACINGBLADE、セバーンREFLEX、ガストラVAPOR、ノースRAM-F13です。それぞれの特徴などを、身長171cm、体重56kgを念頭に教えてください。 |
A:レースセイルの検討項目としては、カムの返りやすさ、体感重量、耐久性、ダウンテンション度合い、アンダーに強いかオーバーに強いか?などさまざまあります。しかしすべてに先行して考慮されるのが「速さ」。候補にあるレースセイルは「速ければ文句無し」の領域にあるトップレースセイル群なのだから、多少の使い勝手は乗り手の技量でカバー、が常識とされる領域にあると考えるべきです。 とは言え実際にはそうも言っていられません。なぜなら乗り手の技量をセイル性能にカバーして欲しいからそれを選ぶ、というジレンマが存在するから。そうしたジレンマを誰もが考慮して選択するわけです。ここで言う「誰もが」とは、主に(レースで言うところの)スペシャルクラスの中堅以降、またオープンクラスの上位を指します。 プロはスポンサーの関係上そのセイルを使う事が義務で、極端に言うならば遅いセイルでもそれを使って速く走る事がプロのプロたる所以なのだから、その言葉に信頼性があるにしても、必ずしもプロが使うセイルが自分に最適とは判断しにくいと言えます。またスペシャルクラスの上位者もライダー価格などの名目で通常より安く入手している場合があり、単純にその使用セイルを善しと判断しにくい部分があります。対してスペシャルクラスの中堅以降からオープンクラスの上位の層にいる人たちは、情報も持ち合わせているし、その情報を自分で判断できる能力があり、その上で自費にて購入する場合が多いため選択も真剣で、だからこそそこを見れば「今流行のセイルがわかる」と言えます。 そうした視点で今のレースシーンを見ると使用セイルに偏りはありません。「どのセイルが良い」とか「どのセイルはダメ」とかの判断基準が存在せず、すなわち「どのセイルも良い」と皆が判断しているという事です。実際に質問者が候補に挙げるセイルはどれも「良いセイル」として多くの人に選ばれています。ここで言う良いセイルとは、性能に偏りやクセが無いということ。ニールのカムの返りが今ひとつと言うのは周知の事実ですが、それも完プレのコンディションでは大丈夫なはずで、そうでなければこの層の人たちからとっくの昔にそっぽを向かれているはずなのです。 細かい事を言えば、例えば候補セイルの中で最も重いのはVAPOR。クリューに少しと、特にマストスリーブを含めたラフ側が他セイルと比べて圧倒的に重く、しかし他よりも薄いフィルムを使う事でバランスをとっています。ならばフィルムが薄いから耐久性に劣るのか?といえばそうとも限りません。薄くてもVAPORのフィルムはセイル上半分がカラーフィルムで、顔料を含んだカラーフィルムは通常の透明フィルムよりも丈夫なので(理由はわかりませんが修理工場を長年やっている経験上、統計的にそう示せます)実際の破損は少ないです。これはノースに使われている白フィルムも同様です。 VAPORが重いと表現しましたが、その「重さ」とはセイルを持ち上げた時の重量。それは計測重量とも異なる感覚的な重さです(カタログ表記の計測重量は実使用にまったく関係ないので無視すべきです)。しかし、実際のセイリングにおける体感重量はそれほど重くないというギャップがあります。これは重量バランスがラフ側にあるため、その重量をマストが支えているからと思われますが、このように「何をもって重いと表現するか?」は非常に難しい判断基準と言えます。持って重くてもセイリングして重くなればそのセイルは重くないということで、もしセイリングで重いセイルがあるとするなら、誰もそれを選ばないでしょうから、選ばれている今のセイルはどれも重くない、と逆説的に判断できます。 耐久性と言うなら、例えばREFLEXは一番下のバテンの上下がスリーブ内部で断裂することが多かったですが、今は補強材が入れられてそうした心配は無く、また候補にはありませんがニールもブームの上とその上のバテン間のスリーブ内部が頻繁に千切れていましたが今はスリーブ内部のラフパネルレイアウトが変更されてそうしたトラブルから解放されています。すなわちどれも耐久性は横並び。「このセイルは耐久性に弱い」という声が聞かれるとしたら、それは概ね昔のイメージにまつわる話で、耐久性面でも改良が加えられた今はそうではないと思った方が良いです。もちろん、明らかに耐久性に劣るものがあるとするなら、それは今現在選ばれていないはずです。 ダウンテンションで言うと、マウイセイルは他より少し緩めと言われています。理由は、他のセイルがダウンテンションでパネルに張りを与えるのに対して、マウイセイルは他より多いバテンの数でパネルに張りを与える作りだから。しかしオーバーを考えるなら、マウイセイルであれどやはりそれなりのダウンが必要。もっともダウンテンションはジョイントとの相互性、具体的にはセバーンやロフトセイルはダウンプーリーが「縦付」で他の多くは「横付」で、それに対してシートがわずかでも交差することなくセットできるジョイントエクステンションを組み合わせているかどうかで引き具合が大幅に異なります。さらに細かく言うなら使用シートの種類や太さも大きく関係するし、シートの古さも関係します。すなわちダウンテンションは、単純にどれが楽でどれが大変と言えないということです。 カムの返りはセッティングに大きく影響されます。ダウンがわずかに不足しただけでカムの返りは大きく悪くなるという具合に。またカムの返りがイマイチと言われるセイルでもそのチューニングを完結してから最終的に判断すべきでしょう。質問内で候補から外されたニールでさえも、バテンの先端キャップの穴をひとつ手前にしてそれに合わせてバテンの長さを調節するチューニングを行えば、初期設定よりもカムの返りが良くなるいうようなチューニング指針が完結しています。 アンダーに強いとかオーバーに強いというのこそチューニング次第のところです。候補内ではノースが最もオーバーに対処しやすいと言えるかもしれませんが、これもまたチューニング次第。ノースをオーバーに強くチューンするにはそれなりの強いダウンテンションが必要なので、オーバーには対処しやすいセイルだけれもどその半面でダウンは強い、という一長一短の感じです。もちろん他のセイルも同じだけダウンを引けば必然的にオーバーに強くなるということも必然。オーバーですぐに乗れなくなってしまったり、アンダーで人より走り出せなかったら、それらもまた選ばれることはないはずなのです。 長々と記してわかりにくくなりましたが、まとめるなら候補のレースセイルに「これ」は無いということ。それぞれに多少の重さや耐久性はあれど使用上致命的というものではなく、また、カムの返りやアンダー&オーバーの対処能力の違いはあれど、それはチューニングや互換マスト、互換ジョイントなどとの関係の上で解消可能な範囲であるということです。 最後に質問者の細身の体格を考えるなら(失礼ながら体力的指針が無いので単純に体格で考えるなら)、トップレースセイルという選択よりもセカンドレースセイルの選択がより現実的かもしれません。特にRDMを使えるセイルは魅力がありそう。RDMが使えるというだけで、セイルアップからジャイブまであらゆる場面で軽さを手にできるだけでなく、操作しやすく、アンダーも確保できます(オーバーは多少失われてしまいますが)。体重的になるべく軽快に使えるセイルが良さそうに思えるので、RDMを使えるロフトセイルのスイッチブレードや、2013年の新モデルでRDMを使えるようになったセバーンのオーバードライブなどは、性能的にトップレースセイルに引けを取らないということと、使用感が軽快ということを考え合わせると魅力的な選択肢にあるのでは?とも思います。 |
|