ボードとフィンのヘタリ

QS.Kさんからの質問

先日、長年使い続けたマストを新調したところ、明らかにオーバーでのセイルコントロールが楽になったことで、「やっぱり新しいものは良い」とマストの経年劣化を実感しました。それと同じように、ボードやフィンにも経年劣化による「ヘタリ」があるのでしょうか。特にフィンスラロームにおいてそれが実感できるとしたら、どのような現象でわかるものなのでしょうか。

Aまずはボードに関して。それをヘタリと呼ぶかどうかは別として、浸水による重量増加があるとしたら走りに明らかな鈍重さを感じるでしょう。しかしたとえ浸水があったとしても、それがわずかであるなら、たぶん体感的に感じ取れることは無いと思います。

多くの人の場合、ボードのヘタリを認識するのは、体感では無く目視としてのデッキ面やボトム面の剥離です。ボードはシェル(外皮)と芯材でできています。そしてシェルは多くの場合、グラスファイバーやカーボン繊維を樹脂で固めた薄い層の間に、これまた薄いウレタン材などを挟んだ三層のサンドイッチ構造。また芯材は簡単にいうなら発泡スチロール。これらが圧着接着されているわけですが、経年劣化によってその接着が剥がれる。特に浸水がある場合に剥離は起きやすく、そうして剥離するとデッキやボトム面が部分的にコブのように浮き上がる。こうなると板の強度も硬度も大幅に低下します。

芯材の発泡スチロールも、シェルの三層それぞれも、個々単体では人力で折ることができる程度の強度しかありません。しかしそれらが接着され一体となることで、板として必要な強度と硬度が作り出されています。しかし剥離してしまうとその強度は初期設定を大きく下回ることになり、それは水面との反発力として体感できます。川面に平たい石を投げる飛び石を想像してください。硬い石なら水面から弾かれるように前へと進みますが、スポンジのように柔らかい素材では弾くことなくそこで止まる。それと同じように、剥離したボードは水面からの反発力を吸収してしまうためスピードの伸びが失われてしまいます。昔は波頭をパンパンと弾くようにスピードに乗れていたのに、最近は波頭に当たる度につまづくような感じでスピードが伸びていかない。そんな感覚があったならば、それは剥離を要因とする板のヘタリと判断できます。

次にフィンに関して。フィンのヘタリはボードにおさまるフィンベースと、ボトムから露出するフィン本体の接合部に主に現れます。もし質問者の使うフィンがG10(薄緑色の透明素材のフィン)ならば、ベースとフィン本体の境目の内部に白くヒビ割れが見えるかもしれません。それは目視としてのヘタリの判断材料になるでしょう。

しかしカーボンフィンであったり、フィン表面にペインティングが施されている場合は、このヒビ割れは見えません。その場合は、フルプレーニングにおけるスピンアウトでそのヘタリを感じることができます。以前と比べて頻繁にスピンアウトするようになった、以前と比べてスピンアウトした後の再グリップが無くて板がいつまでも横滑りしてしまう、などがその体感的なところ。ただしスピンアウトは、その日のコンディションやセイルセッティング、さらには乗り手の体調などの様々な要因にも影響されるので、そのスピンアウトの原因がフィンのヘタリにあると判断できるのは、相当な技量を持っているか、フィンそのものが相当に性能低下している場合に限られるでしょう。

いずれにしてもボードやフィンのヘタリを事前に感じ取ることは難しい。多くの場合は、質問者がマストを新しくして、そして新しいマストを使ったら「やっぱり新しいのは良い」と感じたように、道具を新調して初めて実感することだと思います。