A:まずはフィンに関するごく基本的なところから。フィンにはG10とカーボンがあります。G10とは素材であるグラスファイバー(ガラス繊維)をG10というエポキシ樹脂で硬化させたもので、カーボン(炭素繊維)は素材そのものを示すため、両者の比較は正しくは「グラスフィンvsカーボンフィン」なのですが、一般的には「G10 vsカーボン」という表現で比較されています。
両者には、G10は柔らかく、カーボンは硬い、という違いがあります。柔らかいというと性能的にイマイチと思われるでしょうが、それは例えるならセイルがそうであるように、フィンが水面下でツイストして「水と馴染みやすい」ということ。ウインドはフィンに対して正面から水流が当たるようには走れません。リーウェイによって(辞書項目を参照)フィンには斜め風下から力が加わります。それはちょうど風を受けるセイルと同じで、その力に対してフィンが「しなる」ということ。その際に柔らかいG10は「より、しなり」、硬いカーボンは「しなりにくい」。そして「しなる」ほどにセイルから得たパワーが逃げやすく、「しならない」ほどセイルパワーがダイレクトに板に伝達しやすい、となります。
パワーが逃げる=水と馴染みやすいと、特にターンにおいて利点があります。板を傾けてレイルを入れたとき、フィンもまた水面下で水と馴染んでくれることで優しいターンが描けます。しかし最速時には、水と馴染みすぎるがために水との反発が弱く板のリフトも弱い。対してカーボンは水と反発して板をよりリフトさせますが、水と馴染みにくいためターンはちょっと乗り手の技術が必要なこともある、となります。
それは、ウェイブではG10でさえ硬過ぎるからより柔らかい樹脂を使った(ポリエステル樹脂等)フィンが主流であることからもわかります。ウェイブでカーボンフィンを使ったとしたら、ボトムターンで板が水面から弾き飛ばされてターンそのものを完成させることさえ難しくなるでしょう。対してスラロームでG10よりも柔らかいフィンを使ったなら、セイルに十分なパワーを感じているのにそれを「どこかに」垂れ流しているかのごとく、まったくスピードに乗れないとイライラを感じることでしょう。なぜなら水面下でフィンが必要以上に「しなって=ネジ曲がって」パワーロスしているからです。
それらを総合するなら、速さに興味のある質問者に対してより速い人がカーボンフィンを推奨するのは当然のことと言えます。カーボンは硬いからこそリーウェイの力を受けても水面下で「しなる=ネジ曲がる」こと少なく原型を保ち、そうしてリーウェイの力を塞き止めることでセイルパワーを板にダイレクトに伝達し、ゆえに板のリフトが促進されるのだから。
追記として3つ、カーボンフィンについて記しておきましょう。そのひとつは、カーボンフィンだからとどれも望みの性能を与えてくれる確証は無いということ。事実私も、あるカーボンフィンを使ってわずか15分で「こりゃダメだ」と結論したものがあります。その詳細はここでは省きますが、カーボンフィンのすべてが同じようにリフトする最高の性能を与えてくれるとは限らないということ。しかもG10が25000円とするならカーボンは60000円もする高額。私のような庶民からすればそれはまさしく清水の舞台から飛び降りるほどの気合いを入れないと購入出来ない高額品。だからこそ選択の失敗は許されません。選択の失敗をしないためには、周りでそのフィンを使う人がいてそれが良いという確証がある、レースシーンでそのフィンを使う人が沢山いるから信頼性がある、などを指針に選ぶこと。これはカーボンに限らずG10も含めてすべてのフィン選択時に共通することですが、間違ってもカーボンなら何でも最高と思い違わないこと、です。
もうひとつはカーボンフィンの繊細さ。例えば思わず浅瀬に乗り上げてフィンの先端を「ガリッ」とやっちゃったとき。G10の素材であるグラスファイバーは樹脂と一体化しているので先端をサンドペーパーで軽く削れば回復出来ますが、素材的に硬いカーボンの場合は同じように削っても繊維が「とげ」のように突き出るため回復しにくい場合が多々あることをお忘れなく。すなわちその使用には、間違っても先端を痛めるようなことのないように、G10以上の繊細な心遣いが必要ということです。
そして最後にフィンサイズ。もし質問者が現在G10の40センチを使っていたとしたなら、より「しならない」カーボンはそれよりワンサイズ小さいもの(38センチ)を選ぶこと。それでもなおリフトはG10の40センチを上回ります。もし同じサイズのカーボンを選んだとしたら、リフトしすぎて、それは体感的に「ちょーデカいフィン」の使用感となり、操作が難解になってしまうでしょう。
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