A:Part1
質問内に「フィンの数」とあるので、ご質問の焦点は1枚フィンが当然のスラロームなどの走り系の板ではなく、ウェイブか、もしくはフリーウェイブだろうと想定してお答えします。
基本的な考え方としては、フィンが大きければ直進安定性が高まり、しかし回転性能が低下。逆にフィンが小さければ直進安定性が低下し、しかし回転性能が高まる、という反比例な関係性があります。ゆえに質問にあるように、小さいサイズにするとフィンが抜けやすく、大きくすればグリップが効きやすいというのは正解です。
しかし、大き過ぎるフィンや小さ過ぎるフィンは逆効果。大き過ぎるフィンは効力が強すぎて不自然にラフしやすく、また板が不必要にヒールしてくるなどして逆に真っすぐ走りにくくなるし、小さ過ぎるフィンは回転性以前の問題としてグリップが低すぎて真っすぐ走ることさえ難しくなってしまうでしょう。
そもそも購入時にコンプリートされるフィンは、その板のデザイン上、また相応のテストを繰り返した上で最適と判断されたサイズのものが選ばれています。そのためもしコンプリートフィンを破損して買い替える場合は、通常それと同じサイズを選びます。
とは言え(乗り手の技量にもよりますが)、例えばホームゲレンデがオンショアで波立つところで、その波の中を「上って」出て行かなければならないとしたなら、上りやすく沖に出やすい(グリップが高い)フィンを考慮するのは十分に有り得る常識。その際には、コンプリートフィンのワンサイズ上のサイズ(たぶん2センチ長いくらい)を選ぶことになるでしょう。逆に回転性重視で選ぶなら(それは直進性を乗り手の技量でカバーするということ)、2センチダウンが限界値だろうと思います。それ以上に大きいサイズや小さいサイズを選ぶのは、よほどの手練でない限りは冒険のしすぎ。
これらは主にシングルフィンに関してのことで、また3枚フィンであるスラスター(トライ)のセンターフィンにも当てはまります。
これを、「フィンサイズを大きく=直進性高、回転性低」、「フィン小さく=直進性低、回転性高」の前記した公式に当てはめれば、サイズアップしたフィンの影響でボトムターンなどに悪影響が出そうなところですが、実際には回転性についての影響はごく小さいと思います。それどころか、フィンをワンサイズ大きくしたらアウトに出やすく、しかもターンもしやすくなったと声にする人さえいるほど。これはグリップ力がターンの安定性も高めてくれるためと想像できます。もちろんこれは普通の人の話で、技量が上級であるほどその繊細な違いを感じ取れるので、この限りではありませんが。
フィンの枚数は他にもツイン(2枚)、クアッド(4枚)があります。ツインはそもそもの性能として上りにくく直進しにくいという特徴があるので、それを2枚ともワンサイズ大きくしたなら相当にグリップ力が高まるでしょう。もしそれで回転性能が著しく低下しそうだと懸念するなら、アウトに向かう側のフィン(例えばスタボーでアウトに出てポートで波に乗るなら、スタボーで自分側になる右のフィン)だけワンサイズ大きくするという裏技もあります。それならばターンする左側のフィンが元もサイズなので、2枚ともサイズアップするよりも回転性への影響を少なくできるでしょう。クアッドでフィンサイズを替える人はあまり見かけませんが、どうしても「もっとグリップが欲しい」のなら、中2枚のフィンをサイズアップ。外2枚は元のままにすることで、中2枚のフィンでグリップを、外2枚のフィンで曲がる、というイメージ。より後ろにあるフィン(スラスターならセンターフィン、クアッドなら中2枚)が走りに、それより前にあるフィン、すなわち外側のフィンが回転性に強く影響するので、もし質問者が今よりもグリップを欲しているとするなら、そしてそれがクアッドだとしたなら、中2枚のフィンをサイズアップするのが良いだろうということです。
Part2
長文になってしまいますが、次にフィンの数による動きの違いについて。
シングルとスラスター(3枚フィン)の動きは似ています。ボトムターンで大きく板を傾けたとき、センターにあるフィンの一部が海面上に露出してしまうことがあります。そうなると急激にグリップが失われるのでそれを補填するためにサイドに小さなフィンを持つのがスラスター。しかし巡航時はサイドの2枚のフィンのグリップが加わるためセンターフィンはその分だけ小さくて良いので、シングルに比べてセンターフィンが短いということです。そして双方とも、そうした違いはあれどメインがセンターフィンであるという理由で動きが似ているということ。
ツインはマニアック。走りに関しては、例えばシングルならタック2回で上れるところをツインだと4回タックしないと上り切れないなど走りは難しく、またオンショアのゲレンデのジャンプでは、フェイスに向かってラフする場面で、上りにくい=ラフしにくいという理由によってジャンプへのアプローチも難しく感じるでしょう。しかし波に乗るとスライドする(テイルがリップを滑る)ようなターンが楽しめる。スライドするとは言い換えるならグリップが弱いということで、その分をエッジとレイルを「効かせる」必要があり、そうした難しさに楽しさを感じたり、スライドターンを自分のスタイルとするようなマニア限定と言えます。
クアッドは今の定番と言えるでしょう。シングルやスラスターのようなグリップが約束されて、さらにツインのようなスライドターンも楽しめるという「良いとこ取り」。
Part3
ウェイブボードのフィンスタイルの歴史を少し紐解いてみましょう。
ウェイブボードは最初(1980年初頭)シングルから始まりました。しばらくの時間をおいて次に登場したのがスラスター。ほぼ同時期にトライフィンとツインが登場しました。スラスターとトライは共に3枚フィンのことですが、スラスターとは厳密に言えば小さなサイドフィンのことを示し、ゆえにスラスターは長いセンターフィンと短いサイドフィンの3枚フィンを持つ板のことで、対してトライは3枚とも同じサイズのフィンを持つ板という明確な違いがあります。
それにわずかに遅れてツインが登場。しかしスラスターもトライも、またツインも、その性能を発揮するには(サイドフィンの性能を発揮させるには)相応の幅広いテイルが必要で、でも当時(2000年以前)の板は「長くて細い」アウトラインのデザイン。そのため長くて細い板に(アウトラインに段差/ウイングを付けるなどして)テイルだけ幅広くした違和感満載のデザインが必要で、しかしそのデザインには無理があったようで、結局スラスターもトライもツインも短期で姿を消しました。実際私も当時のツインに乗っていたことがありますが、それはもう無理なテイル幅のおかげで波乗りでレイルを入れるのが厄介この上なく苦慮した記憶があります。
2000年代に入り、それまでの長くて細い板から短くて幅広い板(現在のショート&ワイドと呼ばれるもの)へとボードデザインが大きくシフト。ショート&ワイドの板は必然、テイル幅もまたそれまでのロング&ナローな板よりも幅が広くなりました。それにより復活したのがツイン。そして1年の間をおかずに新たなシステムとしてクアッドが登場。それらは、それまでのシングルのスピードを失うこと無く、フェイスによりアグレッシブなマニューバーを描くためのものとして。
それに追従してスラスターが再び日の目を見ます。それはシングルに限りなく近いものですが、厳密にシングルと比較するなら、シングルの乗り味そのままにツインやクアッドの回転性を両立するものとして。
こうした歴史を紐解くと、それぞれのフィンスタイルが歴史の中で行き来する中で、現時点で到達した最終形がクアッドとスラスターであることがわかります。となれば、それが一番良かろうという結論に辿り着きます。前述したように、ツインのような特別な嗜好が無いとするなら、またフィン枚数は何枚のものが良いのだろうかと悩むレベルであるなら、選んで間違い無いのはクアッドかスラスターということになるでしょう。
クアッドとスラスターを単純比較するなら、スラスターの方がよりウェイブビギナーに適していると解釈できます。普段乗るのがシングルのフリーライドなどだとしたなら、シングルに近い使い心地はスラスターだからという理由によって。もちろんクアッドがウェイブビギナーに不適格だということではなく、それもまた十分な適応能力を持ちますが、まず出だしとしては、スラスターのセンターフィンをワンサイズ大きくすることで、いつも使うシングルの板により近いフィングリップで練習するのが良いだろうと思えるからです。
|