ボードの重量

QS.Kさんからの質問

ウインド歴18年で主にウェイブを楽しんでいます。2015年のスターボードKODEフリーウェイブの103リッターを中古購入したのですが、友人の2011年モデルと比較して、同素材(カーボン)、同浮力、同フィンシステムにもかかわらず重いように思います(カタログ表記でも1キロ近く重い)。他メーカーでも古い板は軽く、近年になるほど重くなる傾向が見えますが、これはカーボンなどの高価な軽量素材の使用率が落ちたためなのか、それともよりハードなパフォーマンスの衝撃に耐えるための耐久性のためなのか、なぜそうした傾向があるのか教えてください。

Aご存知と思いますが、また、ご存じない方々のためにも、今一度ボードの構造について確認しておきましょう。

ボードは芯材である発泡スチロールを硬質な「シェル(貝殻/表皮」で覆って作られています。「サンドイッチ構造」で作られているそのシェルは、芯材である発砲スチロールの上に、カーボン(炭素繊維)やグラスファイバー(ガラス繊維)、もしくはケブラー(防弾チョッキにも使われる黄色いアラミド繊維)などが複合的に編み込まれた布状の素材が、その上に硬質ウレタン素材であったり、ウッドと呼ばれる「木材」を薄くスライスしたものが、さらにその外側(最も外側)をカーボンやグラスなどの布状の素材で再度覆って作られています。サンドイッチ構造とは、この「ウレタンやウッドのスライス素材」を内側と外側から「布状の繊維素材」で挟むことを指しています。

芯材の発砲スチロールとウレタンやウッドの間に挟まる繊維素材と、最も外皮となる繊維素材はエポキシ樹脂で硬化されています。硬化の際にはバキュームと呼ばれる、わかりやすいところで言えばフトンをビニールで覆って掃除機でビニール内部の空気を抜くことでぺちゃんこにするあの方法を用いたり、エポキシ樹脂が正しく硬化するように熱を加えたりなどのさまざまな手法を凝らして、芯材と、挟まるウレタン材などを「圧着」しています。おおよそこうした工法によって、今の板はその性能と硬度、強度を過去と比べて比較できないほどまでに向上させました。

芯材である発砲スチロールは、もちろんボリュームが大きくなれば(板が大きく容量が大きければ)重くなるでしょうが、所詮は発砲スチロールなので、板の大きさに違いがあれどそこに驚くほどの重量差は生じそうに思えません。となれば板の重さの違いとは「シェルの重さの違い」ということになります。

カーボンやグラスの布状素材は縦糸と横糸で編み込まれています。縦糸はカーボンで横糸はグラス、また横糸のグラス繊維の5本に1本がケブラーであるなど実際には複雑ですが、ここではわかりやすくするために、カーボンなら縦糸も横糸もカーボン、グラスなら両方共にグラス繊維、さらには繊維数も編み方も同じと仮定して話を進めましょう。

まず、それぞれの素材には、カーボンは「硬度に優れ」「軽く」、しかしダメージに関してはバキッと割れやすく、グラスは少し柔軟性があるため「硬度はカーボンほどでなく」「カーボンより重く」、しかしダメージに関しては柔軟性が和らげる、すなわちカーボンほど大打撃を受けにくい、という特性があります。たとえばノーズにブームパンチしたとき、カーボンはあっけなく大きく割れるのに対して、グラスはヘコんでヒビが入るけど大きく割れはしない、と言った感じです。ちなみにケブラーは樹脂を吸わないので硬化せず繊維のまま存在するため「断裂」に対する強さは抜群ですが、板を硬くするとかにはまったく役を成さないので、以後の話からはご退場頂きます。

こうした素材の違いと同時に、板の重さに影響するのが樹脂の量。カーボンやグラスを硬化させるための樹脂を「たっぷり」使えば「重いけど丈夫に」、「最小限で」使えば「軽いけど壊れやすい」板が出来上がります。その案配は、その板を使う人のレベルであったり、使用状況によって操作されます。例えば板を壊しやすいビギナー向けなら樹脂たっぷりで、上級者限定のスラロームならさほど壊さないだろうから樹脂少なめで、という感じです。結果、同じ素材を同じ分量使っていても、樹脂の多い前者は重く、後者は軽い、となります。

ここまで長々と記した上で質問に戻りましょう。板が重くなったということは、素材に重いものを使うようになった、もしくは樹脂を多く使うようになった、ということになります。その理由はさまざまなので一般論としてまとめることはできません。また、質問の2015年と2011年のモデルの違いについても古いモデルのため解析するのは難しいです。しかし近年のモデルに関してならばデータがあります。

シルトの大会から帰国直後の小林ゆーまプロに直近のKODEの、年度ごとの素材違いについて聞いてみました。

直近のKODEに関して。旧モデルはシェルにカーボンを多用していて、その際のサンドイッチされる素材は硬質ウレタン材。対してニューモデルはサンドイッチされる素材に「バルサ(木材の一種)」を使い、対してカーボンの使用量を落としている、とのこと。その違いは、硬度と強度は同等、重量は後者の方が重いけど、加速力は後者の方が上回る。普通に考えるなら重い方が性能低下して加速力も低下しそうなものだけど、ゆーまプロ曰く「バルサという素材を使うことで、海面との反発力が強まって加速が良くなった」。

最新のKODEはレイル部にはカーボンが、デッキ面とボトム面にはバルサを使用することでカーボン率を落として作られています。カーボン率を落とすとは、カーボンの使用量を少なくしてグラスの使用量を増やした、ということ。それによって重量は増したものの、逆に性能は向上している、ということです。

ここでひとつの疑問が生じます。サンドイッチされる素材をバルサにして、サンドイッチする素材がカーボンならもっと良かろう、という疑問。それは間違いありません。事実、KODEにはカーボンをふんだんに使った受注生産の超高級モデルもあるとのこと。しかしそこにはユーザーに直結する問題があります。それは価格。

ウインドでカーボンを多用するようになってから遅れること数年、今では航空機から車まで多くのものでカーボンが使われるようになり、それにともなってカーボンの原価は高沸。「値段は高くてもいい」ならば、より良い素材であるバルサを使い、さらにカーボンを多用すれば最高の板が出来上がるのでしょうが、そうして出来上がる板は、普通の人にとってとても高額な板になってしまうことでしょう。すなわち板の「性能」と「プライス」の駆け引きがそこに深く存在するということ。

事実、KODEは、新しいモデルで「重い」けど「高性能」で、しかも「プライスダウン」しています。板の重量とは、このように単に重さだけで判断できるものではなく、その性能や価格も含めて総合的に判断しなければならないのだと思います。メーカーはそうした葛藤の中で、最善のものを選択して我々に供給してくれているということです。そしてそれを受け取る我々は、たとえ少し重くなったとしても新しいモデルの方が良いに決まってる、と信じて間違い無いのだと思います。詳しいことはわからないにしても、です。