デッキコンケーブ追記

QN.Kさんからの質問

スラロームボードのデッキコンケーブの記事に関して。私的には、デッキコンケーブの一番の理由は板にかかる横方向の力を小さくするためと思っています。ジョイントの位置が高ければ板が横方向に回転する(ローリングする)モーメントが大きくなり、乗り手はセイルを引き込まなければならず且つレイルの浮き上がりを抑えなければならず、対してジョイントが低い位置にあれば板がロールするモーメントが小さいため乗り手の負担が少なくなる。よって同じ技量でもその限界値が高くなるためと考えています。その場合、板を薄くすることで容易に同じ効果が得られるでしょうが、それでは板の強度が弱くなるので、板の両サイド(レイル部)を厚くすることで強度を保っている。結果、くぼみのようなコンケーブとなったと考えるのが的確と思えます。記事に掲載されたような効果は単なるその副産物ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

Aデッキコンケーブに関する見解は私の個人的なものではなく、世界的ボードデザイナー達が語る「デッキコンケーブを採用した理由」や、それを間接的に国内に伝える方々(その多くは乗り手としても突出した技量を持ち、且つデザイナーの語る言葉を正確に理解する能力を持つ人達)の伝聞を、デッキコンケーブが世に登場してから現在に至るまで蓄積してまとめた内容であることをお伝えしておきます。

彼ら(世界的デザイナー)が口を揃えて言うのは、「ノーズの上下動という挙動をいかに安定させるか」。PWAのような世界レベルでスラロームを戦う場合、その多くは(我々で言うところの)超オーバーセイルであり、そこでは、波を超えるときにノーズが舞い上がります。またフェイスが壁のようにそそり立つ場面で波を後ろから追い越す際にはボトムでノーズが突き刺さりもします。我々の日常からは遠く離れた中での話かもしれませんが、彼らはそれを現実としてデザインしています。そしてその恩恵は、実際にその場面に出くわすことのないサンデースラローマーにとっても、気付かないほどの小さな、それでいて頻繁に訪れる場面場面で与えられていると思います。

板が舞い上がるというような現象は技量で回避できることではありますが、しかし必然、卓越した技術力のみならず、セイルを開いたりのトリムも必須で、上級者であろうともそれがスピードロスに直結します。もし板が舞い上がりも突き刺さりもせず、いかなる状況でもノーズが海面から一定の「高さを保って」走り続けてくれたとしたら、余計なトリムが必要無くなる分だけ100%に近いスピードが出せる。その答えのひとつとして採用されたのがデッキコンケーブです。残念ながらその採用理由の中には、質問者が言う横方向のローリング云々に関して耳にしたことはありません。

学問として学んでいない立場としては、たぶん学問的知識を持つのであろう質問者の意見は一利あるのだろうとも思えます。しかし反面、ローリングならフィンをサイズダウンしたり、セイルをサイズダウンしたり、もしくはウェイトジャケットを着用しても解消できるのでは?とも思います。ノーズの上下動に関する解消方法は技量をより高めるか、もしくはデザイン的に解消するしかないけど、板の横方向のローリングに関しては簡単に実践できる解決方法が多数あるということです。

質問者の考察は私をさらに悩みの迷路に誘います。モーメントということは力点と支点が関係するはずで、もしその力点をジョイントとし、支点をエッジとするなら、横幅の広い板と狭い板とではどのような違いがあるのだろうか、と。モーメントを小さくするなら、薄くて、幅の狭い方が良いのか。だったらなぜ同じボリュームで同じスラロームボードでありながら、横幅広さがこれほど異なる板が多種多様あるのか。

また、理論的に薄くすることに正解があったとしても、強度のためだけに両サイドのレイルを厚くするという考えも雑に思えてしまいます。なぜなら彼らデザイナーは、カーボンの繊維の重ね合わせ方までを繊細且つ理論的に考え抜いて強度を決定しているから。そう考えると、単に強度のためだけにレイルを厚くすると言うのはどうにも納得し難く、レイルが厚いのには、その「デザイン」の必然性があるからだ、と考える方が正しいでしょう。

もうひとつ、もし質問者の考えが正しいと仮定するなら、ジョイントポジションはデッキコンケーブの「最も深いところ=板の最も薄いところ」にあるはず。しかし実際には多くのデッキコンケーブの板が、ジョイントボックスは「最も薄いところに向かう斜面」にあります。ロベルトリッチー(RRDデザイナー)はデッキコンケーブを採用した初期段階で言っていました(その説明のために過去歴と同じ写真を使わせてもらいます)。

「ジョイントボックスをデッキコンケーブの最薄部へ向かう斜面に設置することで、ジョイントボックスが『前のめりに』すなわちジョイントが前に傾斜した斜面に置ける。結果、ジョイントにかかる力は平面にかかるそれよりも、ノーズを抑える方向により強く作用する」と。これもまた、横方向の力を考えてのことではなく、前後方向の力を考えての言葉。このことからも、デッキコンケーブはその存在価値が「ノーズを抑える」ためのもので、ローリングに効果があると仮定しても、それこそが副産物だと推測できます。

とは言え、質問者の考え方を全否定するつもりはありません。もし質問者がデッキコンケーブの板に乗っていたとして、またそのデザイン効果がローリングを抑えくれるから楽に乗れていると強く実感しているとするなら、それはそれで「正解」なのでしょう。