子供のウインドデビュー

QS.Nさんからの質問

身長152センチ、体重40キロと小柄で非力な方と思われる中学1年になる娘に今夏、本栖湖でウインドデビューさせたいと目論んでます。自前の道具で準備できる、I-Sonicの117と4バテンのウェイブ4.2cmでセイルアップからと考えていますが、いかがなものでしょうか。

A私は日常的に子供に教える立場にないので、子供のスクールを日常的に行う杉氏(フリースタイルとウェイブで雑誌でもたびたび登場する杉匠真くんのお父さん)にもご意見を伺い、その総意として以下に回答させていただきます。

非力とは言え中学1年生であれば相応の体力はあると思われますが、それでも、セイルも板も初回を考えれば難しそうに思えます。もちろん個人差があるので確定的なことは言えませんが、本栖湖(海と違って淡水で浮力が少ない)であること、また遠浅でないこと(遠浅ならいつも近くに居ることが出来ますが、本栖湖の場合ちょっと沖に出てしまったらベタ付きはできず、板の向きやセイルアップをサポートするためにはそこまで泳いで行くか、SUPで行くことしか出来なくなること)を考えれば、I-Sonic117という板は相当に不安に感じます。

セイルサイズに関しても、たぶん何回か体験した後であれば4.2は対処できると思いますが、まったくの初回で4.2は少しキビしそうに思えます。特に子供用などそれ専用のセイルで無い場合、セイルが「硬く」て初心者には「風を捕らえる感覚が得にくい」ということと、クリューが高い(ブームエンドが高い)という致命的マイナス面もあります。さらにラフ長が長い(丈が長い)ことでセイルアップが非常に難しいというのもあり、だからこそ子供用のセイル(=150センチ未満の人用のセイル)はカットオフ(ブーム取り付け位置)が低く、ブームエンドが低くデザインされ、また意図的にマスト長が短く、且つラフカーブを弱くすることでダウンテンションを弱くセイルに柔らかさを与えて風を捕らえる感覚を得やすく作られています。このように単にセイルサイズ的に大丈夫だろうという判断は安易で、セイルの性能含めて吟味しないと、たぶんお子さんは初回で「つまらない」とウインドを放棄してしまうだろうと懸念します。

私事ですが今春、小学5年の娘に初めてウインドを体験させました。彼女の体格は身長148センチ、体重は質問者の娘さんより軽くはあるもののクラスの女子では体の大きい方。またSUPやサーフィンは遊びで心得ていますが、体力がある方だろうということも考慮してウインドの体験用として準備したのは、クリューもブーム取り付け位置も低く設定した自作の1.7cm2と、フリーフォーミュラの135リッター。それでも体重40キロに満たない初心者には、もう少し大きな板の方が良さそうだなぁと思い、2回目からは200リッター超の板を用意しました。

当然のごとく「行ったらそれっきり」になるだろうことも想定しなければなりません。これはケースバイケースですが、スラローム的ボードで初心者がトライする場合、ベアして下って走ってしまうという傾向があります。オンショアのコンディションであればそれは「岸から遠ざからない」という利点がありますが、サイドショアやオフショアの場合それは「どんどん流れて行ってしまう」となります。それをカバーするには(本栖湖を想定すると)、SUPで近場にポジションし、風下に行ったらセイルとお子さんごと引っ張って来ることが必須。ここで注意は「泳いで行けば良かろう」という考え。ウインドは「まったく進んで」見えなくても、それに泳いで追いつこうとすると、想像以上に進みが速くて追いつけません。無理して泳いで追いかければ、それは「お父さんが溺れる」状況に直結するだろうという心配もあります。

そうしたリスクを回避するという意味でも、もし本栖湖で質問内の道具でトライさせるよりも、私達ならば以下のようにします。

板は、最悪、否応無く上れるためのセンターボードを有するテクノのような大きなボリュームの板。セイルは子供用のセイルサイズ2.0m2くらいを用意し、見守るために最低でもSUPで並走して水上で牽引できる準備を整える。くれぐれも泳いで行けば良いでしょなんて考えないこと。それは溺れて命にかかわると思うべきです。また自分もウインドで並走すれば、もダメ。なぜならウインドでは板とセイルとお子さんを同時に牽引できないから。

これらはキビしい条件になるでしょうが、愛するお子さんを危険にさらさないために、また同時にお父さんも危険というリスクを背負わないために、そして何よりもお子さんにウインドを「面白い」と思ってもらうために、我々が質問者に「子供を持つ親」という同じ立場からの回答です。